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2007-11-27 14:24

連載投稿(2)欧州で最低のブッシュ支持率

山下英次  大阪市立大学大学院教授
 ハリス・インターアクティブは、11月9日、世界の指導者の人気に関する国際的な世論調査結果を発表した。それによれば、ブッシュ大統領に対する支持率は、米国では36%であるが、当然のことながら欧州における支持率は極めて低く、フランスで6%、ドイツで8%、イギリスとスペインで13%となっている。この調査は、世界11カ国の指導者に関して人々の回答を求めたものだが、欧州でブッシュよりも不人気だったのは、イランのアフマディネジャード大統領唯一人である。彼の支持率は、フランスで4%、ドイツで5%であった。極めて過激な左翼のヴェネズエラのチャベス大統領も、キューバのカストロ議長も、欧州ではブッシュよりは遙かに人気がある。また、ヨーロッパ人を対象とした別の世論調査では、世界で最も脅威を感じる国はどこかとの質問に対する回答は、イランでも、ロシアでも、北朝鮮でもなく、アメリカ合衆国であった。

 ハリス・インターナショナルの調査結果をもう少し詳しくみてみると、ブッシュを強く支持すると答えた人は、独仏両国でいずれも僅か2%にすぎなかったが、反対に、強く拒否すると答えた人は、フランスで61%、ドイツで57%に達した。このような状況であるにもかかわらず、フランス国民は、かねてよりしばしば ”Sarko the American” と揶揄されるようなアメリカ大好きの人物を大統領に選んでしまった。結局、選挙は、どこの国でも、基本的には国内問題が主たる争点となり、今回のフランスの場合には、「3%の経済成長と5%の失業率の実現」を公約したサルコジが当選した。フランス経済、とりわけ労働市場は、ヨーロッパ大陸諸国の中でも最も硬直的であり、その点、改革が必要なことはよく理解できる。

 しかし、米国の暴走をチェックし、より良いグローバル・ガヴァナンス構造の実現を目指す国際社会の立場からすると、「反動的な」サルコジ外交は懸念すべき材料に違いない。それにしても、成熟した民主主義国とされる国民も、首をかしげたくなるような判断をしばしばしてくれるものである。例えば、2004年の米国大統領選挙。その前の2000年の大統領選挙は、アル・ゴアとの大接戦となり、フロリダ州の票の再集計と最高裁判所の判断を通じてブッシュが大統領になった。しかし、当時のフロリダ州知事がたまたまブッシュの実弟(ジェブ・ブッシュ)でなかったら、また、当時の最高裁判事にパパ・ブッシュの友人が何人もいなかったとしたら、ブッシュはおそらく2000年の選挙で大統領になっていなかったに違いない。しかも、その後、第1期目で、国際条約と国際公約を次々に反故にしてきたにもかかわらず、2004年の大統領選挙で米国民はご丁寧にもブッシュを再選までしてしまった。

 他方、わが国では、2005年の衆議院選挙の際、小泉首相が仕掛けた極めて軽重浮薄な劇場型選挙戦にメディアが乗せられ、有権者は、多数のいわゆる「小泉チルドレン」に投票してしまった。当時の民主党の岡田克也代表は、「安全保障に関する岡田構想」を発表し、戦後続いてきた日本の安全保障上の大きな課題に正面から取り組む姿勢を示していたが、そうした極めてまじめな議論は、残念ながら多くの有権者の間で争点にはならなかった。

 そして、今年のフランスの大統領選挙である。しかし、サルコジ氏は、8月27日、エリーゼ宮における、大統領就任後はじめての外交演説では、「欧州は、米国と同盟しなければならないが、われわれの利益がいつも米国と同じであるわけではない」と主張している。また、11月12日、欧州議会における演説では、欧州は、(米国流の)市場万能主義だけでいくわけではない、といった発言もしている。したがって、サルコジ外交が今後実際にどのような経路たどるかはまだ不明であるが、とにかく親米で突っ走るとうことのないように望みたい。また、たとえそうなったとしても、EU全体としては、それをチェックすることを望みたいものである。(おわり)
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