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2025-11-15 05:47

(連載1)過熱する「台湾有事」非難合戦の裏にある高市首相の勇み足

篠田 英朗 東京外国語大学大学院教授
 高市首相の「台湾有事」の際に日本の「集団的自衛権」の発動が可能になることを意味する「存立危機事態」を認定する国会答弁を受けて、中国が過敏に反応した。中国外務省の林剣報道官は、13日の定例会見で、高市早苗首相に対し、台湾に関連する「悪質な」発言の撤回を要求し、撤回しなければ日本は「一切の結果を負うことになる」と述べた。高市氏の発言を受け、薛剣駐大阪総領事が「汚い首は斬ってやる」とXに投稿したことに対しては、茂木敏充外相は12日、中国側へ対応を要求したと述べた。総領事非難決議を国会でも採択するという。
 
 何も起こっておらず、台湾の当事者の立場も見えないまま、日本と中国の緊張関係が強まっている。アメリカのトランプ大統領ですら、アメリカはこの件とは関係がない、という姿勢をとっている。日本はアメリカとの貿易で多額の利益を得ているし、自分は中国側と良好な関係を持っている、という趣旨の発言をした。背景には、対中国で強い姿勢を見せて高い内閣支持率の維持につなげたい高市首相と、首相のタカ派的な立場を警戒していた中国が、言葉遣いを捉えて、非難の応酬をしている構図がある。高市首相の支持者は、当然、中国に弱腰の姿勢を見せてはならない、と盛り上がる。それを見れば、中国も強い姿勢をとらざるをえない。悪循環だ。
 
 多くの人々が誤解しているようだが、ここで重要なのは、対中政策において、「媚中」的に曖昧であるか、「反中」的に明快であるか、どうかだけではない。高市首相の国会答弁においては、台湾を海上封鎖した中国に対して、まずアメリカが実力行使することが大前提になっている。アメリカが対中戦争に突入すれば、日本としては、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」に入ったと認定せざるを得ないので、集団的自衛権を行使する、という内容になっている。
 
 ところが実際には、アメリカは、「戦略的曖昧性」の従来の政策を捨て切っておらず、台湾防衛を確約などしていない。確かにバイデン前大統領は、踏み込んだ発言を繰り返して、「戦略的曖昧性」の政策の転換を図っているのか、と話題になった。しかしトランプ大統領になって、そのような発言を政府高官が行うことはなくなった。台湾を見捨てるつもりでないとしても、少なくとも従来の「戦略的曖昧性」の地点に立ち戻っていると言える。2015年平和安全法制をめぐる議論では、日本が共同で集団的自衛権を行使するのは、「我が国と密接な関係にある他国」、つまりアメリカである、という点が、自明の前提になっていた。台湾有事に対する日本の立場が曖昧なのは、集団的自衛権を共同で行使する対象国のアメリカが、台湾防衛に曖昧な立場をとっている事情がある。(つづく)
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