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2025-07-30 10:27

(連載1)タイ・カンボジアで戦争勃発の背景とは

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 先日から突然始まったタイ・カンボジア国境における武力衝突に関してその背景を探ってみたい。そもそも、タイとカンボジアの関係が全くわからないという人が多いのではないか。まずはこのようにわからないことがある場合は民族と宗教を調べるということをしてみると良い。そのうえで歴史を見てみればよいというのが問題解決の手法である。

 タイは、タイ族75%、華人14%、その他マレー系、インド系、モン族のほか、カレン族を始めとする山岳民族などがいる。タイの宗教は基本的には仏教で、ゾウがご神体となっている。この宗教に関してはタイに遊びに行った人にはよくわかるのではないか。一方カンボジアは、クメール人が86%、ベトナム人が5%、華人が5%、その他4%がチャム族などの少数民族である。クメール語が公用語に使われることが多い。宗教に関してはやはり仏教が多いのであるが宗教の自由が決められているためには中にはイスラム教も存在する。このように見てみれば、中東のように宗教による対立が存在しないということがわかるのではないか。

 では歴史的に見てみよう。すると、フランスが1863年にカンボジアを保護領化し、翌19世紀末から20世紀初頭にかけてシャム(現タイ)との間で国境線を画定した。1904年と1907年のフランス・シャム間条約では、ダンレック山脈(プレアヴィヒア寺院周辺)などが確定されたが、当時の地図解釈の相違が後の紛争の火種となったという歴史が見えてくる。その前も王朝が事なり民族も異なる二つの国が、地図の解釈の総意で大きな火種ができているということになる。1953年にカンボジアがフランスから独立した後も、プリアヴィヒア寺院周辺の帰属問題は未解決のままだった。1962年、国際司法裁判所(ICJ)は同寺院をカンボジア領と認める判決を下し、タイ側の主張を退けた。これにより一時は緊張が緩和されたが、境界全域の最終画定には至らなかったのである。

 1994年、武力衝突後の国境管理に関する二国間協議が再開された。2000年には陸上国境の現状維持を定めるMOU43、2001年には海上共同資源開発を規定するMOU44が署名され、技術協議を行うJBC(Joint Boundary Commission)が設置された。しかしタイ国内の政情不安を背景に協議は断続的に中断と再開を繰り返した。そのような中、2008年初、カンボジアがプレアビヒア寺院遺跡を世界遺産に登録するように、ユネスコの世界遺産委員会に申請した。ユネスコの世界遺産委員会が、プレアビヒア寺院遺跡をカンボジアの世界遺産に登録することにした。それに対して、タイ国内の政治団体や市民団体がこの合意に激しく反発した。(つづく)
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