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2007-09-21 05:44

APEC事務局機能強化の合意の意味するもの

石垣泰司  東海大学法科大学院非常勤教授
 シドニーで9月5、6日閣僚レベル、ついで8,9日首脳レベルで開催された今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)は、地球温暖化対策に関し温室効果ガスの排出大国である米国、中国、ロシアを含めて得られた初めての合意ともいわれる「シドニー宣言」を採択したのをはじめ、米国が提唱するAPEC域内での自由貿易協定(FTA・AP)を含むAPECの経済統合促進に向けた報告書を承認し、同構想の研究継続やAPECへの新メンバー加盟の凍結解除等の諸措置を決めたところ、とりわけAPEC事務局長の専任化等事務局の組織機能の改革、強化についての合意が発表されたことがとくに注目される。

 APECは、アジア太平洋地域という一応の地域的限定はあるが、北米、一部中南米諸国も含む21ヶ国・地域からなる広汎な多数国間地域協力機構である。ロシア、ベトナムの加盟を最後に加盟国が凍結され、APEC枠内の地域協力も、これまで、お題目的総花的ものが多く、格別の具体的成果が乏しかったことから、ASEAN+3協力の進展や東アジアサミットの発足とともにその陰が薄くなる観も一時見られた。 東アジア共同体構想の論議の関連においても、東アジア共同体の構成国をむやみに増やしたり、協力の手を広げすぎると、しばしばAPECの二の舞のなりかねないといわれたものである。

  しかし、当のASEAN+3および東アジアサミットの地域協力の主導力は、ASEANに握られ、日本、中国、韓国3国とも、これまで必ずしも円滑でない相互関係もこれあり、格別のイニシャティブをとることを控え、ロー・プロファイルに終始してきているので、ASEAN+3および東アジアサミットのいずれの地域協力についても局面打開の将来展望を開けないできているのが実情である。このような現状況を反映して、ASEAN+3および東アジアサミットの地域協力の事務局は、強化の必要は時折叫ばれつつも、専らジャカルタにあるASEAN事務局の対外関係部局が兼務し、完全にASEAN組織自体に依存しているのが現実であり、東アジア共同体の構築がいくら叫ばれても実際には甚だお寒い状況下にある。

  一方、APECは、米国が正規の加盟国となっており、米政府は、東アジアサミットを巡る動きについては完全に無視とまではいかないまでも、これを遠方より観望しつつ、近年、APECをアジア太平洋地域むけの外交ツールとしてこれまで以上に重視し、力をいれようとしていることは明らかである。 さらにAPECには台湾が正規のメンバーとして入っており、インド、パキスタン、モンゴル等約10ヶ国が新規加盟を希望しているとされる。 中国も、従来より一貫してASEAN+3および東アジア両サミットには政府代表としてナンバー2の首相を派遣する一方、APEC首脳会議には胡錦涛国家主席が自ら出席し、APEC重視の姿勢を示してきている。

  今回APECシドニー会議で合意されたAPEC事務局の強化は、従来次回APEC首脳会議を開催する議長国が1年交替でシンガポールにある事務局に出向させてきた事務局長の代わりに、一定の任期、権限等有する専任事務局長を設けるという本格的な機構改革であり、さらに専門家が政策提言や評価・分析などを行う「政策支援ユニット」も事務局内に新設されるなど、企画調査部門の充実強化も図られている。これは、まさにAPECの本格的な再活性化のはじまりであり、ASEAN+3・東アジアサミット側の機構の真剣な見直しを迫るものといえ、これに対しASEAN+3・東アジア両サミット側においてこれまでのようにASEAN事務局の一部間借り状況を放置しつづけ、本格的機構改革等対策の検討を行わないようであれば、アジア・太平洋地域におけるAPECの重みが増しつづけ、東アジア共同体の構築のための機運の停滞ないしスローダウンを招来しないとも限らないであろう。 
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