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2024-06-21 22:20

ロシア北朝鮮の連携がもたらす混沌

岡本 裕明 海外事業経営者
 プーチン大統領と金正恩総書記が「包括的戦略パートナーシップ」を締結しました。両国はソ連時代である1961年に軍事介入を含む友好協力相互援助条約を結んでいましたが91年のソ連崩壊に伴い、この条約は消滅。代わって2000年に友好善隣協力条約を結んだのですが、これは単なるお友達条約でした。今回のパートナーシップは軍事協力を含むものであり、より同盟に近いものとされます。今回の動きについて個人的にいろいろ考えを巡らせてみたのですが、きっかけこそウクライナ戦争における軍需品調達先という意味合いで北朝鮮に白羽の矢が立ったわけですが、プーチン氏の考えは金正恩氏をうまく手玉に取る狡猾な頭脳プレーになりうると考えています。

 北朝鮮は西側諸国から厳しい経済制裁を受ける中、その生命維持装置は歴史的に中国でありました。ところが私が見る限り、戦後の中国と北朝鮮の関係は高句麗、百済、新羅の三国時代の頃からの中国による朝鮮大陸への冊封の前提が崩れてきたとみています。金日成、金正日氏の流れで少しずつ中国が目の上のたん瘤に感じるようになりますが、それでも金正日氏は中国と持ちつ持たれつのお付き合いでした。ところが金正恩氏になると非常にドライになります。特にその行動変化はトランプ氏との3度の会合にありました。金正恩氏はアメリカ文化に憧れ、自分をアメリカが外交相手にしてくれることに興奮すら覚えたわけです。ところが実際の交渉では夢と現実のギャップを感じることになり、トランプ氏とも心の壁ができ、バイデン氏に至っては相手にすらしなくなったわけです。その間、コロナで厳しい国内政策へのシフトを余儀なくさせられ、食糧や生活物資の供給においても中国に頼らざるを得なくなったのが実態でした。しかし、金正恩氏にとっては嫌で嫌でたまらなかったのでしょう。そこに現れたのがプーチン氏です。しかもミサイルなどの技術指導までしてくれるし、武器のみならず、人材の供与を通じて国内経済の立て直しのきっかけづくりになったとも言えます。よって金氏が今回のパートナーシップ話に飛びつくのはごく自然であったと思います。

 ではここからです。この包括的で戦略的なパートナーシップは現在、ウクライナという明白な目的があるからこそ、その意味合いをフル活用できるわけです。ただ、この戦争がいつまでも続くわけではないでしょう。それが終わった時、この関係がどうなるのか、これが最大のキーポイントではないかと考えています。ロシアは歴史的にモスクワやサンクトペテルブルグを含め、ウラル山脈の西側と東側で政策も国家の歴史も大きく違いがあります。そして基本的には戦略的意味合いから西側にシフトし続ける必要がありました。ところがウラル山脈の東側からシベリアにかけて新たな政治的戦略の意味合いが出てきたため、ロシアとしては今後、そちらに力を入れたいわけです。その場合のシベリア開発において北朝鮮にその役目を負わせられるのではないか、そんなオプションがプーチン氏の頭の中にあるのではないかとみています。

 特に注意が必要なのが北方四島を含む千島列島と樺太開発に北朝鮮とのパートナーシップを組む可能性がないとは言えない点です。ロシアに行ったことがある方ならわかると思いますが、あの国も様々な民族の寄せ集めですが、東スラブ系とモンゴル系アジア人が割と入り乱れています。その中で東の開発は東スラブ系民族が上に立ち、アジア系に人材の供給を含めた労働力確保をしてもらうのが重要な戦略になります。それを今回の「包括」契約で将来のビジョンを内包させたとみています。ではこれで面白くない思いをするのは誰か、といえば西側諸国はもとより中国は相当の不満を抱えているでしょう。それまで冊封関係、そして歴史的な友好関係をロシアに取られたわけです。平たく言えば略奪婚です。もちろん、中国は大人の態度をとるはずですが、中国にとっては目の上のたん瘤にならないとも限らないでしょう。

 もう一つ、日本からすれば西郷隆盛的でちょっと古典的な考えかもしれませんが、ロシアの南下政策の再来を頭の片隅に置きたいところです。仮に、朝鮮半島有事が起きた場合、「包括」協定に基づき、ロシア軍が北朝鮮軍に援軍をし、それこそ、朝鮮戦争の二の舞にならないとも限らず、その場合、韓国国防が視野に入る一方、同時に中国が台湾有事を行う場合、日本は望まぬ二面作戦となりうる公算もあります。あまり考えたくないのですが、可能性のオプションとしては我々は意識しておくべきでしょう。その点からすればどこまで下地ができているのかわかりませんが、岸田首相のこの夏の訪朝が水面下で検討されているなら強くそれを実行すべきだと思います。金正恩氏は岸田氏なら会うと見ています。(安倍氏では絶対に会わなかったと思います。)日本の東アジア外交は極めて重要な局面に入ってしまったといえるでしょう。
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