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2007-09-16 11:42

連載投稿(2)インドの経済的躍進の背景と今後の課題

廣野良吉  成蹊大学名誉教授
 今回の会議は「新しいインドを今後どうもっていくか」が主題であったが、セッションの構成が論理的であり、周到な準備がなされていたのが印象的であった。第1セッションでは、インド国籍の多国籍企業が戦前から現在まで如何に発展してきたかを検討し、特に対外債務危機を契機に導入された1991年の自由化政策による規制緩和と欧米諸国の多国籍企業の対印投資、欧米諸国で技術と資金と人的ネットワークを構築してきた印僑(NRI)こそ、情報通信、鉄鋼、バイオ産業部門において国際競争市場で優位に立つ企業の誕生を促進してきた基因であることを強調していた。

 第2セッションでは、戦後続いてきた保護主義、規制主義から離別し、規制緩和・自由化政策の導入という大きな政策の転換を果たした背後には、欧米諸国で高度技術を蓄積した非居住インド人技術者の貢献はもちろんのこと、科学技術分野における長年に及ぶインド国内での高等教育の蓄積、若手の与野党の政治家の果敢な決断、さらに欧米高等教育機関で勉学し、世界的視野に立ってリスクに挑戦する若手インド人投資家、経営者の貢献を高く評価していた。今後は、優秀な経営管理専門家を世界中のいたるところから動員し、世界的に最も優れた経営慣行を導入し、価値観・文化の多様性を積極的に取り入れると同時に、能力主義に徹した企業文化を一層強化することが確認された。しかし、現時点では多くの製造企業が相変わらず外国籍多国籍企業の下流部門に特化しており、高い付加価値を生む上流部門に関与するインド企業が比較的少ないことを指摘し、この面での今後の官民協力の強化を訴える意見も聞かれた。

 第3セッションは、日本、香港、アセアン諸国からみたインドの現状と将来に対する期待とインドからみた東アジア諸国(北東アジアと東南アジア)の経済と域内経済協力に対する期待が主題であった。一方で、インド経済の急速な経済成長、工業化の進展とそれがもたらしたアジア太平洋地域全体におけるインドの経済的・政治的地位の重要性を再認識するとともに、他方では南アジア地域の政治的不安定や域内協力の緩慢な進展とこの面でのインド政府の消極的な姿勢に対する懸念が表明された。南アジア地域におけるインド経済の圧倒的優位を考慮すると、インドによる一方的な輸入自由化や南アジアの近隣諸国への経済協力の拡充はもちろん重要であるが、南アジア諸国自身がインドに習って国内の政治的安定と経済成長を確保する必要性が指摘された。さらに将来は、中国やアセアン諸国に大規模に進出している日本、韓国、香港、台湾等の多国籍企業が、インドや南アジア地域への直接投資を一層拡大するとともに、近年顕著化しているインド大企業の対外直接投資が今後一層東アジア諸国へ向かうためのインドや東アジア地域の各国政府の政策のあり方について討議された。(つづく)
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