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2024-02-26 12:02

韓国の中国本土市場に於けるプレゼンス低下について

真田 幸光 大学教員
 韓国の最大貿易相手国は、今は中国本土であり、重要なビジネスパートナーは中国本土である。しかし、その中国本土での韓国のプレゼンスが落ちていると韓国では危機感が高まっている。以下は韓国の視点を基にした見方である。「昨年の中国本土による輸入に占める韓国の割合が6%台に低下した。中韓国交正常化翌年の1993年の5.2%以来の30年間で最低となった。中国本土の国・地域別輸入先でも韓国は3位に後退している。これは中国本土市場で韓国製品が競争力を失い、中国本土が韓国製品を求めていないことを示しており、韓国の対中輸出不振の現状を物語っているものであることは間違いない。更に、昨年の対中貿易赤字は過去最高の180億米ドルを超えた。米中貿易摩擦で生じたサプライチェーンの再構築と中国本土の製造業の競争力向上が重なった結果と見られる」との総括コメントが見られている。
 
 そして、韓国貿易協会によると、中国本土による昨年の韓国からの輸入額は1、625億米ドルと、前年に比べて18.8%減少し、中国本土の輸入全体に占める割合は6.3%に低下したと報告されている。中国本土の国・地域別輸入先で韓国はこれまで2位であったが、昨年は台湾(7.8%)、米国(6.5%)に次ぐ3位に後退したとも報告された。韓国が中間財を輸出し、それを中国本土が加工した完成品を販売する国際分業体制が崩壊し、石油化学、鉄鋼、石油製品など韓国の主力輸出品目に対する需要が減少したことで、「メードインコリア」は中国本土市場で存在感が薄れたとも見られている。中国本土がかなりの品目で競争力を付け、自給率を高める中、昨年は韓国輸出を支えてきた半導体景気まで低迷し、中国本土の輸入に占める割合は7%を割り込んだ。韓国は2013年から2019年まで7年連続で中国本土にとって最大の輸入先であったが、韓国製スマートフォンや自動車、ディスプレーなどが中国本土市場から徐々に締め出され、シェアは2017年の9.9%、2019年の8.4%、2022年の7.4%と毎年減少を続けた。中韓貿易の構造が激しい競合関係となり、新成長産業に対する集中投資と同時に、中国本土内需市場攻略の為の戦略づくりが急がないと更にシェアが低下するとの危機感も出てきている。中国本土が2010年代半ばから「中国製造2025」を掲げ、製造業育成に取り組んだ結果、先端半導体と一部ディスプレー製品を除けば競争力を保つ韓国製品はほとんどなくなったとも分析されている。

 これを筆者は、「中国本土の、いざとなったら鎖国できる国作りの一環策」であると見ている。中国本土は外国には頼らぬ産業構造に着実に転換してきている。中国本土では代表的な中間財である石油化学製品は中間原料やベースオイルのような汎用製品の自給率が90%以上に高まり、2013年に235億米ドルに達した対中輸出が昨年は170億米ドルにまで減少した。新型コロナウイルス感染拡大前まで中国本土の自給率は60%前後であったが、ここ数年間で生産設備の増強が続き、もはや韓国製品を必要としなくなった。BtoC(企業と一般消費者の取引)製品もかつて中国本土市場で大きな人気を集めた化粧品の不振が続いているほか、昨年の輸出額が709億米ドルに達し、過去最大を記録した韓国車も中国本土市場での販売額は3億米ドルに留まっている。二次電池は韓国が中国本土から83億米ドルを輸入し、韓国からの輸出額(5億米ドル)の16倍に達している。このように競争力の低下が続く中、昨年はコロナ下で拡大した世界的なIT需要まで冷え込み、対中輸出を支えてきた半導体の輸出が昨年、前年対比30.6%減の361億米ドルに留まったことが追い打ちを掛けたと見られている。半導体輸出急減を受け、中国本土の韓国からの輸入は2022年の2,002億米ドルから昨年は1,625億米ドルへと18.8%も減少した。
 
 中国本土企業の需要が集中するメモリー半導体などの競争力を維持し、中国本土の内需市場でも競争力を持つことが出来る新産業を育成することは韓国産業界にとっては喫緊の課題であり、依然として韓国の輸出の20%近くを占める最大輸出相手国であり、経済成長率が5%に達する中国本土市場を直ちに放棄することは出来ない中、半導体景気が回復すると見込まれることに希望があるが、米中の覇権争いの中でまず韓国が優位に立っている半導体で格差を維持する戦略が求められ、脱中国本土戦略を持ち続けつつ、中国本土市場を無視せず、韓国産業界が発展しなくてはならないとの声が強い。こうした結論が韓国らしく、また、韓国のしたたかさでもある。日本も韓国の動きを意識しながら、産業構造の抜本的な再構築を目指さなくてはならない。
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