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2024-02-26 11:28

竹島問題でも国連海洋法条約は活用できる

倉西 雅子 政治学者
 国連海洋法条約は、南シナ海問題においてフィリピンが中国を常設仲裁裁判所に提訴するに際して用いられた条約です。「九段線」論など、欠席した中国が主張してきた根拠をも精査し、中国以外の凡そ全て諸国が納得する内容の判決が下されたのは、同条約にあって仲裁手続きについては単独提訴を定めていたからに他なりません。当事国双方の合意を絶対要件としたのでは、法廷が開かれることすらなかったことでしょう。そして、この手法は、尖閣諸島問題のみならず、竹島問題にも活用することができます。これまで、日本国政府もアメリカも、竹島問題の司法解決機関として想定してきたのはICJ(国際司法裁判所)でした。ICJの手続きでは、他の条約の解決手段としてICJが指定されていない限り、当事国間合意の要件を満たさなければ受理されないため、韓国側の拒絶の前にこの道を閉ざされたに等しい状態にあったのです。このため、日本国政府には、敢えて単独提訴に踏み切り、韓国側の拒絶理由の提示を引き出すことで圧力をかけるといった方法しか残されていませんでした。この圧力さえ、韓国への配慮からか、日本国政府は二の足を踏んでいたのです。かくして、竹島問題の司法解決は足踏み状態となっていたのですが、竹島が‘’島であることに注目しますと、新たなアプローチが見えてきます。ブレークスルーとなるのが上述した国連海洋法条約です。日本国もまた、竹島問題について韓国側の合意を得なくとも、同条約の第287条5項に基づいて、付属議定書Ⅶに定めた仲裁に付すことができるのです。日本国が同条約に基づいて竹島問題を仲裁裁判に付すとすれば、日本国政府には、韓国の行動を違法とする幾つかの主張すべき点がありそうです。

 第一の訴えは、竹島の海岸線を基線として設定されている領海の侵犯と言うことになりましょう。しかも、1954年6月から竹島に常駐している韓国沿岸警備隊の出入港、並びに、海洋警備庁の警備艇等の活動は、無害通航でもありません。公権力の行使ですので、同条約に対する違反行為と見なされます。第二の主張は、EEZ内の漁業権を争点とするものです。EEZとは、1996年に国連海洋法条約が発効すると同時に設定し得るようになった、沿岸の基線から200海里の水域であって、領海ではないものの沿岸国には資源等に関する主権的権利が認められています。日韓両国間の境界線の線引きについては、竹島問題を抱えていたため、一先ず竹島を存在しないものと見なしつつ、日本国側が不利となる変則的な境界線が暫定的に引かれることとなりました。かくして、日韓漁業協定が1998年11月28日に署名され、1999年1月22日に発効したのです(旧協定は1965年に締結・・・)。ところが、その後、韓国側の日本側海域での違法操業が悪質化したため、両国間の関係は悪化します。協定内容の更新交渉が試みられたのですが、同交渉は決裂状態となって今日に至っているのです。目下、双方が自国のEEZにおいて相手国の漁船を閉め出す状態が続いています。しかも、竹島周辺海域では、韓国海上警備庁の警備艦等によって日本漁船は全て排除されているのです。

 こうした中、2018年には韓国の海上警備庁の警備艦が日本海域の大和堆周辺にあって日本漁船に退去を求める警告を無線で送る事件も発生しており、漁業権問題は、竹島問題も絡む形で深刻化しています。現行の日韓漁業協定は、上述したように竹島を存在しないものとして扱っていますが、国連海洋法条約上の権利の争いとして仲裁を求めるという方法もありましょう。もっとも、仲裁裁判所が、二国間協定の優先を理由として受理しない可能性もありますので、日韓漁業協定を一端終了させた上で、改めて竹島周辺海域の漁業権を争う必要があるかも知れません(ただし、日韓漁業協定は、国連海洋法条約の発効を受けて成立しているので、終了を要さない可能性もある・・・)。そして、第三の主張も、EEZに関連します。近年、韓国は、竹島周辺海域において積極的に資源調査を実施しています。この行為は、国連海洋法条約第56条で定める日本国のEEZにおける主権的権利の侵害行為に該当しましょう。仮に、海洋の科学的調査を実施するにしても、沿岸国の許可を要するからです(同条約第246条2項)。竹島周辺海域の海底には、良質のメタンハドレーども埋蔵されているとする指摘もあります。

 以上に述べてきましたように、尖閣諸島問題のみならず竹島問題についても、国連海洋法条約上の諸権利の争いとして、日本国政府には司法解決の道が開かれています。第287条5項に基づく仲裁であれば、日本国政府による単独提訴であっても受理されるのですから、ICJへの単独提訴よりも現実的で効果的な手段とも言えましょう。そして、国際社会にあって法の支配の確立を訴えてきた日本国であればこそ、言葉のみではなく、明確な政策方針に基づく司法解決を目指すことを、その行動で示すべきではないかと思うのです。
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