国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2023-08-02 15:25

第3期習近平体制下の中国人民解放軍の動向

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
 2023年8月1日、中国人民解放軍は創設96周年を迎えた。中国軍ネットは同日、解放軍報の祝賀社説を掲載し、習近平同志という「核心に忠誠を誓ってこれを守り、党の指揮に絶対に従い、建軍100年の奮闘目標を見定めて鍛錬し、奮闘・前進しなければならない」と強調した。建軍100年にあたる2027年まではもう4年しかないが、四川省成都などを視察していた習近平党中央軍事委員会主席は7月26日、隷下の軍に対し「軍事闘争準備推進の深化」という戦闘力の強化と同時に、「部隊建設の新局面を開く」すなわち全面的に軍を厳格に管理するよう要求し、「(軍内)党組織は思想上、政治上、組織上部隊をしっかりと掌握せよ」と厳命した。こうした厳しい要求を軍に出した習主席の真意はどこにあったのであろうか。以下、細部みていこう。

 7月31日、中国共産党の中央軍事委員会は北京で上将昇任式を行い、習主席ら軍事委員会メンバー7人が全員出席した。軍事委員会の何衛東副主席が式典を主宰し、張又侠副主席が上将昇任命令を読み上げた。今回、上将に昇任したのは2015年12月、「第2砲兵」というミサイル担当兵種(兵科)から陸海空軍に続く4番目の軍種へ格上げとなったロケット軍(戦略ミサイル部隊)の王厚斌司令員、徐西盛政治委員であり、首長である司令員、政治委員の「ツートップ」が同時に交代したことが判明した。そして、この「異例」の人事異動は、彼ら2人の経歴からも裏付けられた。すなわち王司令員は海軍副司令員、徐政治委員は南部戦区空軍政治委員からの其々「外部からの人事異動」であり、2015年末に「ロケット軍は我が国の戦略的威嚇の核心であり、大国としての地位の戦略的支柱であり、国家の安全を守るための重要な基盤である」と習主席が評価した新軍種の首長が海軍、空軍という他軍種の軍人によって占められることになったのである。ロケット軍の司令員は過去3代、初代の魏鳳和(後に中央軍事委員会委員兼国防部長に就任)に続き周亜寧(副司令員から昇格)、李玉超(司令部参謀長から昇格)と全て「生え抜き」のミサイル担当兵科出身であり、政治委員も同兵科出身の王家勝が長く務めていた。2020年7月に王家勝の後任として陸軍の徐忠波(当時は聯勤保障部隊政治委員)が就いたが、軍内の思想政治・組織工作担当者である政治委員は軍全体の「共通」職種とも言え、問題はなかったのであろう。しかしながら、この時期に何故、こうした人事異動が行われたのであろうか。折りしもあれ、7月25日には秦剛外交部長の更迭人事も行われ、中国内外では「揣摩臆測」報道が喧しくなるばかりである。
 
 そして、小生はたまたま矢板明夫『習近平の悲劇』(産経新聞出版2017年)という書籍の中に「『ロケット軍』の実態」という記述を見つけた。そこにはロケット軍の前身である「第2砲兵は中国軍の中でも最も軍紀が乱れ、汚職などが横行している部隊」であり、中国内陸部の青海省の基地で4年間勤務した元軍人の話として「拝金主義」が部隊に蔓延して違法な商売・アルバイトが行われ、これで得た資金による昇進人事、栄誉獲得は日常茶飯事だったという。こうした「惨状」を目の当たりにした習近平政権は2012年以降、軍内で反腐敗キャンペーンを展開し、徐才厚・郭伯雄といった制服組トップの中央軍事委員会副主席経験者を含めて多くの将軍を「失脚」させてきたのであるが、10年間やっても軍内の腐敗汚職問題は依然として改善していないということであろうか。中央軍事委員会委員で軍内の紀律検査を担当する張昇民(ロケット軍出身で同政治部主任から昇格)の言動を含め、今後の軍内における反腐敗キャンペーンの動向が注目される。

 最後に現代中国研究の泰斗であり、中国軍事研究の第一人者であった平松茂雄先生の訃報(7月5日逝去 享年87)に小生は接した。残念ながら平松先生から直接の指導は受けなかったが、講演会や研究会などで何度も謦咳に接することができた。先生の長年の御功績に感謝し、ここに謹んで御冥福をお祈りしたい、合掌。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会