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2023-06-24 10:21

資本主義対共産主義という二頭作戦の罠

倉西 雅子 政治学者
 第二次世界大戦後の国際社会では、アメリカを盟主とする自由主義陣営とソ連邦を中心とした社会・共産主義陣営が政治的に鋭く対峙する冷戦構造が成立しています。同対立の背景には、資本主義対共産主義のイデオロギー対立があったことは、否定のしようもありません。そして今日なおも、新冷戦という言葉が登場したように、共産党一党独裁体制を敷く中国がロシアをも凌ぐ軍事大国として台頭したため、資本主義対共産主義の対立構図が再生産されているのです。

 資本主義には企業の自由が保障されず、株主の権利が企業の主体性を侵害しています。主体性なき自由はないからです。また、経営と組織内に働く人々との間に分断があり、このため、利益配分においても後者は不利な立場に置かれます。19世紀や20世紀初頭にあっては、カール・マルクスが唱えた資本家による労働者の‘搾取’あるいは‘過酷な労働’も、誰もが目にする日常的な光景であったのでしょう。資本家が肥え太る一方で貧困に喘ぐ労働者という構図が、マジョリティーとなる労働者の間に共産主義者が広げたと言っても過言ではありません(プロレタリア文学等が資本家の無慈悲さを強調し、マイナス・イメージがさらに増幅・・・)。その一方で、共産主義の活動家の人々は、労働者を資本家から解放し、資本主義に替わるのは、唯一共産主義しかないとするイメージを吹き込んだのでしょう。かくして資本主義の貪欲な悪辣さを嫌悪し、義憤にかられた知識人や若者達の多くも、共産主義に惹きつけられていったのです。

 しかしながら、今になりまして冷静に両者の対立を見直してみますと、資本主義と共産主義は、世界権力による二頭作戦であった可能性は否定し得ないように思えます。何故ならば、両者とも、行き着く先は個人であれ、組織であれ、他者への‘隷従’であるからです。資本主義では、政治権力をもマネー・パワーで掌握し得る極一部の富裕者が個人や企業を支配する一方で、共産主義では、これもまた極一部の共産党幹部が権力も富も独占します。後者の方が、プロレタリア独裁というイデオロギー上の根拠がありますので、強固な独占体制が成立しますが、資本主義にあっても、競争法が存在しながらも十分に機能しているわけではありません。株式取得による企業買収は、かろうじて自立性を保ってきた企業の数を徐々に減らしてゆきます。中小の商店の多くも大手の傘下となりチェーン店化し、全国どこでも町並に変わり映えがしなくなりました。また、近年では、IT大手による独占や寡占が情報並びにそれに基づく経済支配の問題として問題視されています。政財界共にイノヴェーションの担い手としてスタートアップを奨励していますが、その多くは時を経ずして大手に吸収されてしまうか、特定の‘株主’の収益源とされるのです(例えば、チャットGPTを開発したオープンAIの大株主はマイクロ・ソフト社・・・)。資本主義と共産主義双方の共通性に鑑みますと、一般の人々は、どちらを選択したとしても結局は地獄を見ることとなります。加えて、民主主義国家では、‘入れ子’の如く、国家の内部にあって保守対革新の対立構図が意図的に造られ、二項対立による国民の追い込みが図られていたとも推測されるのです。

 上述したように、近現代の経済構造が、世界権力による資本主義と共産主義の両者を操る挟み撃ち作戦であったとしますと、人類は、何れをも選択してはならず、新たな道を探るべきと言うことになりましょう。そして、新たなる経済システムでは、企業形態にも多様性が認められると共に、企業間の関係については、資本を介した支配・被支配の関係ではなく、自発的かつ並列的な協力関係を原則とし(契約の自由の徹底・・・)、世界権力による人類支配やデジタル全体主義に奉仕するような特定の分野を偏重するのではなく、様々な分野が調和的に発展しつつ、個々人や各企業の自立性が尊重される体制が望ましいこととなります。このために、例えば株主の権利を融資者としての利益に預かる程度に縮小したり、株式を社債化すといった方法などもありましょう。そして、各国の政府には、世界権力の‘使用人’となるのではなく、私的マネー・パワーの横暴を制御する役割を担わせるべきではないかと思うのです。今日、日本国民のみならず人類が必要としているのは‘新しい資本主義’でも’グレート・リセット’でもなく、‘新しい経済システム’なのではないでしょうか。
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