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2023-03-23 15:03

韓国の‘元徴用工問題の解決方法’が標準モデル化すると?

倉西 雅子 政治学者
 先日、韓国政府が公表した「元徴用工問題」の解決策については、対中政策の一環として日韓関係の改善を急ぐアメリカの思惑があったとする指摘があります。この説を裏付けるかのように、同解決策が公表された直後に、バイデン大統領も歓迎の意を示しています。しかしながら、この解決策、仮に、‘植民地支配’に関する賠償請求問題を解決する標準モデルとされた場合、アメリカ自身にも返ってくるのではないでしょうか。何故ならば、同解決策には、日本国による朝鮮半島の統治を‘植民地支配’とする大前提があるからです。
 
 法的な側面からしますと、日本国による朝鮮半島の統治は、1910年8月22日に締結された韓国併合条約を根拠としています。日本国は、清国やロシア帝国とは戦いましたが、李氏朝鮮(大韓帝国)と戦争に至った歴史はなく、武力による併合ではないことだけは明白です。列強が勢力圏争いを繰り広げた当時の時代状況を背景に、対露政策の必要性から保護国から併合へと歩を進めたのであり、その手法も、たとえ当時の朝鮮半島の人々の意には沿わないものであったとしても、一先ずは‘平和的’であったと言えましょう。しかも、李氏朝鮮の莫大な債務を肩代わりした上に、朝鮮統治のおよそ全期間において財政移転も行い、莫大な投資を実施してきたのですから、日本国は一方的な利得者でも搾取者でもありませんでした(併合で得をしたのは、韓国のデフォルトによる損失を免れた国際金融・財閥勢力であったのでは・・・)。この側面は、仮に、将来において朝鮮半島の南北両国が統一された場合の、韓国側の財政負担額を推計してみますと、よく理解できます。低開発状態にある地域を発展させるためには、官民あげての莫大な投資や支援を要するのですから。
 
 条約の存在のみならず、その実態についても当時の行政文書等でも確認し得る歴史的な事実があるからこそ、日本国による朝鮮統治は搾取的な植民地支配とは言いがたく、国際法にあっても合法性を主張し得たのでしょう。実際に、1965年6月22日に署名され、今日に至るまで日韓関係の基礎とされてきた「日韓基本関係条約」にあっても、その第2条には、韓国併合条約について「もはや無効であることが確認される」とあります。あくまでも‘かつて有効であったものが今や無効となった’とする立場の表現であり、日本国政府のみならず、当事の韓国政府も併合条約の効力については認めており、‘違法’とは見なしていないのです。韓国のケースは、第二次世界大戦並びに朝鮮戦争を引き起こした冷戦構造にあって、好条件で日本国との間に基本条約及び請求権協定を締結し得た例外的な事例です。逆に旧宗主国に対してインフラ等の譲渡料を支払った国も少なくないのですから。
 
 このように、日本国の朝鮮半島統治は、比較的穏やかではあったのですが(同君連合でもあったオーストリアとハンガリーとの関係に近い・・・)、イギリス、フランス、オランダ、そしてアメリカの植民地支配が過酷であったことは、様々な史料により明らかです。植民地化の手法も、王族の取り込み、内部工作、内乱への介入のみならず、直接的な武力行使、あるいは、武力による威嚇もありました(もっとも、その実態は、国家による植民地支配と言うよりは、東インド会社や金融・経済勢力による過酷な支配・・・)。そして、天然資源を独占すると共に、現地の住民に対しても支配者として苛斂誅求の権を思うがままにしています。韓国が‘過酷な植民地支配’と言う時、それは、これらの事例を念頭に置いているのでしょうから、西欧列強による搾取型の支配が‘植民地支配’の一般的な形態なのです。
 
 例外的に有利な条件で独立した韓国が、仮に植民地支配を前提として‘強制労働’に対する対価を未払い賃金として請求できるのであれば、より搾取的な支配を受けたアジアやアフリカにおける旧植民地諸国も、自国国内の裁判所の判決により、同様の要求を旧宗主国にし得るはずです。韓国のケースは、たとえ、独立に際して両国間で条約や協定が正式に締結されていたとしても、国内裁判所の条文の解釈によって個人の賠償請求を認める前例となります。しかも、今般の韓国における賠償請求訴訟をみますと、原告団には「元徴用工」の子孫も含まれています。本人のみならず子孫にまで同権利の継承を認めるとなりますと、その請求額は天文学的な数字となるかもしれません。
 
 このように考えますと、アメリカによる同解決の後押しは、自陣営にとりましてはマイナス方向に作用する可能性は否定はできません。自由主義陣営を構成する国の大半が、全世界に広大な海外領土を保有していた列強国であるからです。イギリス、フランス、オランダのみならず、アメリカもフィリピン等を領有していた歴史があります。アメリカは、フィリピンから国内裁判所の判決を根拠とする韓国式の解決を求められた場合、一体、どのように対応するのでしょうか。
 
 今後、国際社会において韓国式の解決方法が標準化しますと、国際社会は、大混乱に陥るかもしれません。そして、海外領土の獲得に際して中心的な役割を果たしていたのが東インド会社やイエズス会といった非国家組織であった点を考慮しますと、真の賠償責任は何処にあるのか、という問題をも問うていると思うのです。
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