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2022-12-27 18:35

第3期習近平体制の内政動向⑤

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
 12月26日、中国共産党の習近平総書記・国家主席・中央軍事委員会主席は、愛国衛生運動発動70周年に際して重要指示を出し、「この70年来、党の指導の下、愛国衛生運動は人民の健康を中心として予防を主とすることを堅持し、都市と農村の環境衛生状況改善のため重大な伝染病に有効に対応し、社会の健康整備水準向上の面で重要な役割を果たしてきた」とし、「全国の愛国衛生戦線の同志に対し、初心と使命を常に忘れず、優良な伝統発揚を継承し、活動の中身を充実させ、その方式・方法は刷新しながら健康な中国を作り上げることを加速するために新たな貢献を行うよう希望する」と指摘した。さらに、習総書記は「当面、我が国の防疫活動は新たな情勢と新たな任務に直面し、よりピンポイントに(中国語:更加有針対性)愛国衛生運動を展開し、その組織的な優勢と大衆動員の優勢を充分に発揮して広大な人民大衆が健康知識を自ら学び、健康技能を習得し、個人の良い衛生習慣を養成し、文明的で健康的な生活方式を実践して多数の文明的・健康的な小環境によって、社会における防疫という巨大な防衛ライン(中国語:大防線)をしっかりと作り、人民大衆の生命安全と健康を確実に守らなければならない」と強調したのである。奇しくも12月26日は、愛国衛生運動という「大衆運動」を発動した毛沢東党主席(当時)の誕生日であり、習総書記は、その威光と主張を利用したのであろう。しかし、70年前の1952年は、1949年の中華人民共和国成立からまだ3年の時点で経済回復期であり、しかも抗米援朝戦争(朝鮮戦争)に中国が参戦の真っ最中であり、当時の愛国衛生運動の主眼は疫病の原因とされた「四害」(ネズミ、スズメ、ハエ、蚊)の除去であった。では、習近平はこの時期、何故新たな「愛国衛生運動」展開を呼び掛けたのであろうか。

 過去の資料をあたると、習近平総書記が「COVID-19」の発生に対し「愛国衛生運動」を呼び掛けたのは今回が初めてではない。2年前、疫病発生直後の2020年3月2日、北京市内の軍事医学研究院、清華大学医学院を視察した際に習総書記は「愛国衛生運動の展開を堅持し、人民の居住環境改善、飲食習慣、社会心理上の健康、公共衛生施設など多くの分野で活動し、特に野生動物を喰うという陋習を根絶して文明的な健康、グリーン環境の保護という生活方式を提唱しなければなならない」と強調していた。さらに4月1日、浙江省杭州市において習総書記は「現在に軸足を置いて遠方を眺め、戦略的な計画と未来配置を強化し、平時と戦時を結合させ、重大な防疫メカニズムを完成させ、公共衛生分野における応急管理システムを健全化させ、活動の重点を第一線の深部に置かなければならない」とし、「愛国衛生運動の展開を深化させ、都市と農村の環境整備を推進し、公共衛生設備を改善し、文明的な健康、グリーン環境の保護という生活方式を提唱しなければならない」とも主張していたのだが、これ以降は「ゼロコロナ」政策の堅持となり、愛国衛生運動に触れることは無くなったのである。一部のメディアは、愛国衛生運動によって「人民大衆の生命安全と健康を守る」という習総書記の指示をとらえて「国民の生命と健康を重視する」方向に転換したと解説していたが、小生は違和感大である。その答えは12月27日付「人民ネット」に掲載されたコラム「今日談」が明らかにしてくれた。愛国衛生運動の意義を解説した同コラムは「予防こそ最も経済的で最も有効な健康上の策略であり、各人民全て自身の健康の第一責任者であり、健康という銀のスプーンはその手中にあることを多くの人々が認識するに至った」とし、「愛国衛生は人々に益をもたらすが、同時に防疫活動では人々にも責任がある」と主張したことから、要は今後、「大衆運動」の一環である防疫活動の中で党は指導して政府が主導し、多くの部門が協力し合って社会全体が関与し、「大衛生・大健康」の理念を堅持して根源からの対処を突出させたいということなのだ。「COVID-19」が湖北省武漢市で発生した2019年末以降の3年間、中国当局は延べ40万人以上の感染者に対し積極的に対応していたが、もう「銀のスプーン(匙)を投げた」のである。それが証拠に12月27日早朝、国家衛生健康委員会が出した公告(同26日付)は、「新型環状病毒肺炎は新型環状病毒感染である」と名称変更し、国務院の承認を得て発布2週間後の「2023年1月8日以降、『伝染病予防・治療法』に規定された甲類伝染病の予防・治療措置を解除し、『国境衛生検疫法』に規定された検疫管理にも当てはまらない」と発表したのである。公告等の内容をみると、2023年1月8日(同7日は「春運」(旧正月に際した帰郷交通)開始日)以降、①感染者に対する隔離措置は実施せず、濃厚接触者への判定も行われず、危険度高・低地域の区別も行わない、②感染者に対しては分級・分類の対応を行い、医療保障政策は適宜調整する、③検査・測定も「検査希望者には検査を行う」に調整する、④感染者状況の情報公開の頻度と内容も調整する、⑤入国者・入国貨物等へ伝染病検疫の管理措置は行わないこととなった。「人民ネット」の報道によれば今後、「中国の防疫活動の目標は『健康保持・重症化防止』を中心に相応の措置をとり、人民大衆の生命安全と健康を最大限守り、感染症の経済社会発展への影響を最大限減少させる」というが、「大衛生・大健康」の理念とは「最大限衛生・最大限健康」にすぎず、社会のセイフティーネットからこぼれ落ちていく「工場労働者、各組織職員、学生」や「高齢者・幼児・病人・障がい者など重点人員」という弱者は救済されないのであろうか。日本で一時流行った「自己責任」論を、「社会主義近代化国家」の中国も採用したのであろうか。いずれにせよ激動の2022年はもう終わる。この1年、「内憂外患」に苛まれた中国は、いかなる方向へ向かうのかが注目される。
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