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2022-12-05 14:48

第3期習近平体制の内政動向②

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
 11月30日、江沢民元国家主席が上海市で逝去した(享年96)が、中国当局の対応は迅速だった。同日夕方には習近平国家主席を主任委員とする「江沢民同志葬儀委員会」が発足し、翌12月1日には江沢民の遺骸を上海から特別機で北京に移した。そして、葬儀委員会は公告を出し、6日午前10時(現地時間、日本時間11時)から人民大会堂で追悼大会を開催すると発表した。ここで小生が注目したのが葬儀委員会メンバーである。習近平以下の「チャイナ7」(中国共産党中央政治局常務委員)ら現職要人に加え、党大会閉幕時に「強制退場」騒ぎのあった胡錦涛前国家主席、習近平に苦言を呈したとされる朱鎔基元総理、改革派とされる温家宝元総理ら「長老」要人が多数名を連ねていたのだ。さらに、江沢民の遺骸を北京に移した際に上海に派遣されて同行したのが蔡奇政治局常務委員(党中央書記処筆頭書記、前北京市党委員会書記)ら葬儀委員会事務局メンバーだったことである。しかし、蔡奇に同事務局長の肩書は無く、恐らく本来葬儀を仕切るべき丁薛祥政治局常務委員(党中央弁公庁主任)の存在への配慮ではないかと思った。小生が倦まず主張してきたように、中国共産党は今もって党務を「裏方」として仕切る弁公庁主任、人事担当の組織部長を前期から変えていないからである。そんな最中に江沢民という「長老」が亡くなった。現代中国では、要人死去を契機に政局が混乱する場合がある。1976年の毛沢東党主席の死去は、毛主席夫人の江青ら「四人組」の逮捕を呼び、1989年の胡耀邦元党総書記の急死は「六四」天安門事件の引きがねとなった。全く収まらない「COVID-19」の感染に伴うコロナ禍、これに対する厳格な「ゼロコロナ」政策に反対する学生・市民らの抗議活動に加え、今回の江沢民死去への対処はハンドリングを誤れば、社会の不安定化に伴う政局混乱を招来する可能性も否定できない。以下、注目すべき事象をみていこう。
 先ず12月4日現在、中国の「COVID-19」感染状況は、本土全体31地域で国内感染者4,247人に無症状感染者25,477人を加えて29,724人を計上し、総計34万483人となっている。11月14日付の拙稿で明らかにした当時の総計は27万3762人で僅か半月の間に約7万人の感染者が増加しており、中国当局の防疫活動は全く効果をあげておらず、むしろ10月末、第3期習近平体制を成立させた党大会以降に感染者が急増した事実を当局は如何に分析・評価しているのであろうか。トップの習近平国家主席は12月1日、訪中したミシェル欧州理事会常任議長と会談した際、「中国ではオミクロン株が主流になっている。以前のデルタ株は致死率が高かったが、オミクロン株は比較的低いから規制緩和してもよい」とし、抗議運動は「主に大学生や10代がしている」、感染症拡大から3年が経ち「国民が不満を抱いている」との見方を明らかにしたという(EU関係筋の内輪話、中国側の公式報道では未確認)。こうした情勢認識の下、衛生当局は防疫活動の強化を打ち出したが、治安当局も強力な措置遂行を公表した。

 11月28日、陳文清中央政法委員会書記(政治局委員兼書記処書記)は全体会議を開催し、「政法機関は断固として国家の安全と社会の安定を維持しなければならない」とし、特に「敵対勢力の浸透破壊活動や、社会秩序を混乱させる違法犯罪活動に断固として打撃を与え、社会全体の安定を維持しなければならない」と強調したのである。さらに、同会議は「安全生産工作についても研究した」ことを明らかにし、「各地域・職能部門は安全生産への主体的な責任を推進し、断固として重大・特大事故の発生を防止、抑制しなければならない」と主張した。「安全生産」に関しては国務院に安全生産委員会が存在し、その事務方は応急管理部である。11月21日、河南省安陽で発生した特大火災事故(オフィスビル火災で38人死亡)には国務院から調査組が派遣され、トップは宋元明応急管理部副部長(国家安全生産応急救援センター主任)となった。その3日後の24日、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で発生したアパート火災(10人死亡)は規模は小さかったが、市内の封鎖措置によって消防・救援活動が遅れたという情報が流れ、民衆の怒りを招き抗議活動に繋がったという。ウルムチ市内の「小規模」火災には応急管理部の対応は無く、党中央政法委員会が経済生産活動においても、治安対策を含め一括して対処するということであろうか。確かに政法委員会副書記(書記代理か)は、習近平の側近とされる王小洪公安部長(書記処書記)であり、今後の情勢不安定化、社会騒乱には断固として対処する決意表明の可能性が高い。

 かつて25年前の1997年2月19日、中国の社会主義改革開放・近代化建設の総設計師と称された鄧小平が北京で亡くなった(享年93)。1週間の服喪期間を経た25日、追悼大会が開催され、江沢民が弔辞を行った。鄧小平の遺言に基づき、その角膜と遺体は献体されて3月2日、遺骨は残さず大海に散骨された。果たして江沢民はいかなる遺言を残したのか。また、習近平の側近である蔡奇葬儀委員会担当書記は、上海で江沢民の遺族から何かメッセージを受け取ったのか。12月6日の追悼大会における習近平の弔辞の内容、大会後の葬儀委員会公告が注目される。
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