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2007-08-30 21:45

連載投稿(4)「移民労働」「文化交流」各作業部会の印象

廣野良吉  成蹊大学名誉教授
 「東アジア移民労働協力枠組み」作業部会の報告書については、移民労働者保護のためには当事国の法律、行政、司法制度の改善が不可欠であるとして、その場合に当事国政府が採用すべき保護政策に共通な原則・基準について多国間合意を求めているのは、高く評価する。しかし問題は、これらの保護原則・基準を定めた東アジア移民労働者保護協定の厳格な実施を加盟各国政府がするかどうかであり、その実施状況を把握・監視し、協定違反に対する是正策を提言・強制できる東アジア地域監視委員会の創設とその効果的な活動を可能にする制度的仕組みをどうするかである。さらに、NEATシンガポール総会での議論でも提示されたように、移民労働者保護の成否は、当事国政府の責任だけでなく、移民労働者とその家族自身の異文化地域社会への適応努力にもかかっている。

 「東アジア文化交流の増進」作業部会の報告書については、二国間であれ、多国間であれ、域内での文化交流の重要性は誰しも疑わないが、その現状分析とそれに基づく政策提言ではなく、最初に問題ありきで、その克明な指摘から始まっていることが気がかりである。何人かの総会出席者が議論していたように、東アジアにおける文化交流・協力は既に相当進んでおり、特に二国間文化交流・協力は、青少年交流をはじめ、音楽・映画・演劇等芸術部門のみならず、スポーツ部門、教育・学術部門、技術者・弁護士・会計士等専門家部門、NGO部門等で数十年の歴史を持ち、これらの文化交流が各国の人々の間の相互理解と相互信頼に大きな役割を果たしてきた。東アジア各国政府もそのことを理解して、今後その拡充を計画している。

 確かに、本作業部会の報告書が指摘しているように、過去に一部「押し付け型」文化協力があったことは事実であろうが、21世紀の現在はかなりその影が薄くなっており、情報技術、交通手段の迅速化・低コスト化によって、一層多くの人々が文化交流を経験しており、各国は自国民の文化交流活動を何らかの理由で抑制すること自身が困難になっている。また、マスコミによる文化摩擦や歴史認識等に関する感情的な取り上げ方が、特定国間に相互不信を招くことは相変わらず見られるが、現在東アジア地域でも直面している最大課題の一つは、インターネット等を通じた草の根レベルの文化交流活動を制限する政策の功罪であり、サービス貿易の自由化や海外観光旅行が世界的に進展している中で、如何にして自国文化・伝統を保護し、それへの誇りを維持しつつ、各国間の文化交流の推進・両立を実現していくかである。この課題に応える文化協力のあり方こそ、本作業部会で模索すべきことであろう。(つづく)
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