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2022-09-06 20:04

(連載1)自民党改憲案の問題点-壊れた国会の'ブレーキ機能'-

倉西 雅子 政治学者
 緊急事態条項に伴う首相への権限集中による独裁化、並びに、これとセットとなる国民の基本的な自由や権利の制限に関する懸念については、国会が制御機能を果たすとして問題視しない意見も聞かれます。同見解が主張するように、「自民党憲法改正案」の第98条並びに第99条には、国会の関与を定める幾つかの条文を確かに見出すことができます。しかしながら、国会に期待されている制御機能は、無力化してしまう可能性が高いのではないでしょうか。
 
 憲法改正案に記されている国会の関与とは、第一に、内閣総理大臣の緊急事態の宣言に際して、事前または事後において国会の承認を得なければならないというものです(第98条2項)。第二に、国会の事前または事後的承認を得られなかった場合、あるいは、国会が事態の推移によりもはや同宣言を必要としないとする決議した場合には、内閣総理大臣は同宣言を解除しなければなりません(第98条3項前段)。また、緊急事態宣言が100日を越えて継続される場合には、100日を越えるごとに国会の承認を得なければならないとしています(第98条3項後段)。加えて第三に、内閣総理大臣が制定する政令並びに処分についても、国家の事後承認を要します(第99条2項)。
 
 このように、幾重にも国会によるチェックがあり、かつ、緊急事態宣言を停止させる権限まで認められているのですから、多くの国民も、国会が担う首相の暴走に歯止めをかける安全装置が付けられているのを見て安心するかもしれません。首相独裁体制化は杞憂に過ぎないと。ところが、この制御機能、第99条4項によって台無しになってしまうのです。同項には、以下の条文があります。「緊急事態宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。」
 
 この一文、よく読みますと、恐ろしいことが書いてあります。‘衆議院は解散されないものとし’までならばまだしも、その続きとして両議員の任期と選挙期日に関する特例の記述があるからです。つまり、特例を設ければ、衆議院議員4年、参議院議員6年の国会議員の任期を延長することができると解されるのです。緊急事態宣言下では首相に各種の重要権限が集中しますので、同特例も、内閣、否、首相の一存による政令、あるいは、指示として設けられるのでしょう。この条文を根拠とすれば、緊急事態の宣言と同時に、首相は、国会議員を選出する民主的選挙を休止させることが可能となります。これは、事実上、一時的ではあれ、日本国から民主主義が姿を消すことを意味しましょう。そして、国会議員の側からすれば、緊急事態が続く限り国政選挙は実施されないのですから、自らの議員としての地位は安泰となります。(つづく)
 
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