国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2022-07-19 18:35

(連載1)リスクに満ちたウクライナ復興資金問題

倉西 雅子 政治学者
 ロシアによる軍事介入を受ける以前から、ウクライナは、巨額の対外債務を抱え、資金繰りに苦しむ国でした。’ウクライナ危機’とは、かつてはこの財政危機を意味していたのですが、今では、国際紛争にその席を譲っています。ところが、今般、スイスにおいて開かれたウクライナ復興国際会議は、今後、二つの’ウクライナ危機’が合流してしまう可能性を示しました。同会議に出席したウクライナのデニス・シュミハリ首相によれば、同国の復興には100兆円を超える資金を要するそうです。
 
 同国際会議では、「ルガノ宣言」が採択されており、復興の中心的な推進国をウクライナに定めています。この宣言によれば、復興資金も当事国であるウクライナが負担すべきということになるのですが、戦争被害に対する賠償金の問題は、本来、ウクライナとロシアとの間において締結される講和会議、並びに、講和条約の締結を以って解決されるべき問題です。ウクライナが戦勝国となれば、同国は、ウクライナ側が受けた被害額に応じた賠償金をロシアから得ることとなります。その一方で、ウクライナが敗戦国となったとしても、賠償請求権を放棄しない限り、国際法にあっては対ロ請求権は認められています。
 
 もっとも、後者の場合には、ロシア側が賠償金の支払い要求に応じる可能性は極めて低く、ウクライナ復興資金は、重くウクライナの肩にかかってきます。しかも、既にデフォルト寸前の状況にありましたので、ウクライナが自力で100兆円もの資金を自国の歳入から拠出できるはずもありません。となりますと、海外からの資金調達を当てにするしかないのですが、ウクライナ財政の危機的な現状を見れば、同国への融資には、各国政府も民間金融機関も二の足を踏むことでしょう。国債の発行という調達手段もありますが、高利回りの外貨建てのウクライナ債を発行しようものなら、即、デフォルト宣言となりかねません。
 
 こうしたウクライナの厳しい財政事情からしますと、ハイリスクを承知で官民の海外金融機関から融資を受けるか、各国政府からの’災害復興支援’に類する形で無償供与に期待するしかなくなります。前者については、既に欧州評議会銀行が2800億円規模のウクライナ復興債を発行する一方で、日本国のJICAも「平和構築債」の名称で200億円分のウクライナ支援債を発行する旨を公表しています。JICAの説明によれば、ウクライナ政府に対する有償資金協力事業に充てるとしていますが、こうした政府系の金融機関による債権発行は、ウクライナ債発行リスクの肩代わりとして理解されるかもしれません。(つづく)
 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会