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2007-08-17 05:06

東アジア共同体構築に向けて勇気づけられる2つの動き

石垣泰司  東海大学法科大学院非常勤教授
  東アジア共同体構築に向けての取り組みは、その性質上、長期的なものであって、その目標に向け忍耐強く一歩でも半歩でも前進をはかることが重要であり、その過程での紆余曲折に際し一喜一憂すべきではないが、最近気づきの2つの前向きの動きについて述べてみたい。

  その一つは、7月18日の日経新聞の官庁人事欄で眼にとまった経済産業省関係の僅か2行の記事についてである。そこには7月14日付けで「東アジア経済統合推進室長」の新人事が発表されていた。経産省にいつの間にかそのような新組織ができていたことは不覚にもそれまで承知していなかった。経済統合を所掌する中央官庁の組織としては、外務省経済局に古くから経済統合課があるが、それは、東アジアに関するものではなく、欧州経済統合、つまり今日のEUに対するわが国の対外経済政策を所掌するもので、現在は経済統合体課と名前が変わっているが、重点は依然EUにあり、ASEAN+3や東アジアサミット等東アジア共同体にかかわる問題は、外務省ではアジア大洋州局地域政策課の「アジア地域における総合的な外交政策」という所掌事務の一環として対応されてきている。

  早速、経産省に照会してみたら同室は昨年10月1日付で通商政策局国際経済課の下に設置され、主な業務は、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の設立準備及び運営に関する国内外関係者との調整など東アジア経済統合に関するもので、具体的には、東アジア各国関係者(政府・研究機関等)との連絡・調整、国内関係者(関係省庁・研究機関等)との連絡・調整(予算要求を含む)、各種国際会議への対応(ERIA専門家会合、東アジア経済大臣会合等)という。 東アジア共同体構築に向けては、ASEAN+3を中心とした各国政府ベースの取り組みが決定的に重要であり、そのためにはわが国政府の本腰の取り組みが望まれところ、上記経産省の新組織は同省限りの判断で設置したものとは思われるが、その具体的業務内容はともあれ、東アジア地域経済統合に向けた名称を付して初めてできたわが国中央官庁の1つの組織として注目して良いと思われる。

  他の歓迎すべき動きは、本邦主要各紙でも報道された、7月30日マニラでのASEAN外相会議において加盟国の行動規範となる「ASEAN憲章」に加盟国の人権問題を監視する機関の創設を盛り込むことなどにつき合意が成立し、さらにASEANの意思決定方法の見直しなどについても集中討議が行われたとされることである。ASEANは、従来より「内政不干渉」と「全会一致」表決方式を鉄則とし、外部から強い批判に晒されてきたミャンマー等一部加盟国の人権問題等には、何らの有効な措置もとれないできたが、今般ASEAN内部から「内政不干渉」は今後とも重要な原則の1つとはしつつも、加盟国の人権問題を監視する新人権機関を創設し、さらにASEANの表決方式も見直そうとする動きが出てきたのは特筆すべきことである。

  これらは、ASEAN+3の枠内で将来東アジア共同体構築に向けて諸制度(institutions)を検討する段階に進む際、極めて重要な意味を持つこととなる。もとよりASEANの上記新人権機構創設についても加盟国の中に依然抵抗する向きや、具体的設置時期をできるだけ遅らせようとする勢力があり、また、表決方式の見直し問題についてもそう容易に全会一致の原則が変更されるとは思われないが、何れもASEAN諸国自身が将来の地域統合に向けて超えなければならないハードルを何とかして超えようとして、真剣にこれまでの伝統的原則に重要な修正を加えようとしていることを示すものであり、大いに評価して良いであろう。
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