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2022-04-05 21:34

「共産党を権力の外側に」が示す野党のあるべき姿

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 著名政治評論家の屋山太郎氏は、3月31日「アゴラ言論」掲載論文「共産党を権力の外側に」において、日本において容易に野党への政権交代が実現しないのは、共産党が存在し、常に「野党政権」に加わろうとするために、野党全体が反共産アレルギーの影響を受けるからであり、前回の総選挙ではこれが立憲民主党離れを起こしたと分析しておられる。そして、選挙で勝つのは無党派層の動向にかかり、無党派層が最も嫌うのは自由と民主主義が滅びることであるから、共産党と組んだら負けるのは歴史の教訓であると指摘しておられる。極めて鋭い分析であり、立憲民主党は今夏の参議院選を控え、この分析を肝に銘じるべきであろう。
 
 屋山氏が指摘された無党派層が重視する「自由と民主主義」は、日本共産党が党綱領(五)で実現を目指す「社会主義・共産主義」と本質的に鋭く対立し矛盾するのであり、社会主義・共産主義と自由・民主主義は両立しない。すなわち、「自由」については、仮に、社会主義政権が、資本主義社会におけるように国民に対して、「経済的自由」すなわち、全面的に土地や生産設備を含む生産手段所有の自由や企業経営の自由などを認めると、国民の間に必然的に所得の不平等が生じ、貧富の格差が生じることは避けられない。なぜなら、各人の労働能力・労働意欲・労働環境や企業経営上の才覚などにもおのずと差異があるからである。これは貧富の格差に反対し、資本家による労働者搾取に反対する社会主義・共産主義の「平等」の理念と鋭く対立し矛盾する。また、仮に、社会主義政権が国民に対して「政治的自由」すなわち集会・結社・言論・出版・表現の自由を認めると、社会主義政権に対する反対や批判が可能となり、これは政権交代を認めない共産党一党独裁(「プロレタリアート独裁」)の社会主義政権と鋭く対立し矛盾する。旧ソ連、旧東欧、中国、北朝鮮、ベトナム、ラオス、民主カンボジア、キューバなどはすべて共産党一党独裁であり、歴史上、民主的な国民の選挙による政権交代を認めた社会主義政権は一切存在しない。したがって、一旦成立した社会主義政権には民主的な政権交代はありえず、共産党一党独裁の「永久政権」と考えるべきである。そして、自由と民主主義は表裏一体であり不可分のものである。自由のないところに民主主義はなく、民主主義のないところに自由はないからである。屋山氏が指摘された「反共産アレルギー」(「共産党拒絶反応」)の正体は、私見によれば、(1)国民の自由と民主主義を圧殺した人権蹂躙の旧ソ連・旧東欧・中国・北朝鮮などの社会主義・共産主義に対する日本国民の恐怖心、(2)日本共産党の過去の火炎瓶闘争などの暴力革命路線や「敵の出方論」に対する日本国民の恐怖心と警戒心、(3)自衛隊や日米安保にも反対する日本共産党に対する日本国民の安全保障上の不安感、(4)仮に、日本共産党が政権を獲得した場合の自由と民主主義喪失への日本国民の恐怖感と不安感などに基づくものである。
 
 国民民主党の玉木代表は、前回の総選挙で共産党と「閣外協力」して惨敗した立憲民主党の教訓から、選挙協力などで共産党と組む危険性や不利益をいち早く認識し、共産党とは選挙協力をせず「共産党離れ」をした。これは日本国民の強靭な「反共産アレルギー」を知悉しているからでもあろう。このため共産党の小池書記局長は、国民民主党が政府提出予算案に賛成したことを含め、自民党政権の補完勢力と罵倒した。ところが、立憲民主党の泉代表は、態度が煮え切らず、今夏の参議院選挙でも再び共産党と候補者一本化に向けた選挙協力をする意向のようである。今や立憲民主党は、選挙区での候補者の一本化など共産党との選挙協力なしでは、選挙戦を戦えない体質と構造に陥ってしまっていると考えられる。しかし、立憲民主党が前回の総選挙での共産党との選挙協力路線を踏襲すれば、結果は前回の二の舞となろう。そのうえ、前回の総選挙で大躍進した日本維新の会は今夏の参議院選でも多くの選挙区に候補者を立てる見込みであり、そうすると、立憲・共産による候補者一本化の効果は減殺される。今後も立憲が共産と選挙協力等で組めば、将来、日本維新の会が立憲を抜いて野党第一党に躍り出る可能性も否定はできない。
 
 このように見てくると、屋山太郎氏の分析は正鵠を射ており、日本共産党の選挙協力路線は不調に終わる運命にあることがわかる。自由と民主主義のない政党は、本質的に独自の道を進むしかないということである。日本に自民党政権に代わり得る本格的な政権が誕生するためには非自民だけでなく非共産も避けて通れない道なのである。それは日本国民の間に今もなお強靭な「反共産アレルギー」が存在するからにほかならない。その意味で「共産党を権力の外側に」(「屋山太郎氏論文」)は我が意を得たり、である。したがって、党勢の衰えが見える日本共産党にとって、自己改革は待ったなしである。自衛隊・日米安保などの安全保障政策を含め、日本国民のこの強靭な「反共産アレルギー」の解消に全力を傾け、旧ソ連型でも、中国型でも、北朝鮮型でもない、多数の日本国民が安心できる日本独自の「先進国型社会主義構想」の構築を目指す以外に道はない。
 
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