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2022-03-12 21:29

「核共有」議論避けるべきでない理由

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 自民党の安倍晋三元首相は、2月27日のフジテレビ日曜報道番組で、核保有国ロシアによる非核保有国ウクライナに対する軍事侵攻を受けて、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運営する「核共有」(「ニュークリア・シェアリング」)の議論の必要性につき問題提起した。安倍元首相の発言を受けて、日本維新の会は3月3日政府に対し、現在の情勢下でも核保有国による侵略のリスクが存在すると指摘し、「核共有」の議論の開始を提言した。腰が引けた政府自民党に比べ、「日本防衛」のための勇気ある提言であり高く評価したい。こうしたロシアのウクライナ侵攻を受けた「核共有」議論の高まりに対して、共産党や立憲民主党は「核共有」絶対反対を主張している。その理由は、「核のない世界」を目指す国際的な流れに逆行する、日本の国是である非核三原則の「核持ち込み」に違反し、自衛隊が核攻撃に参加することになる、核配備基地が攻撃目標となり危険である、周辺国の「核軍拡」に拍車をかける、などである(3月5日付「しんぶん赤旗」)。これらの反対理由のうち「核のない世界」を目指すことには筆者も賛成である。しかし、現実に核保有国によって非核保有国が大規模に軍事侵略された今回の事態は、国の主権独立と国民の生命財産に係わる極めて重大深刻な事態である。したがって、日本としても、あらかじめこのような事態の発生を防止し抑止することは極めて重要であり、「核共有」を含め、そのためのあらゆる選択肢の議論を「非核三原則」を理由に排除すべきではない。なぜなら、日本の存亡は「非核三原則」よりも優先することが明らかだからである。
 
 現に、3月6日フジテレビ日曜報道番組での9万人を超える視聴者の世論調査によれば、「核共有」の議論をすべきが76%、すべきでないが19%、わからないが5%であり、この調査結果に筆者も意を強くした。国民の多くは今回のロシアによるウクライナ侵攻を受け、「核抑止」を含め日本の安全保障に非常な不安や危機感を持っていることが分かる。この国民の不安や危機感を共産党や立憲民主党は真摯に受け止めなければならない。「核共有」は、NATO(「北大西洋条約機構」)において、旧ソ連に対する「核抑止力」として1950年代に導入され、現在はドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコに米軍の核爆弾「B61」が合計150発配備されていると言われている。核爆弾「B61」は、平時には主として米軍が管理し、戦時での使用は米軍が決定権を持ち、上記各国の核攻撃能力を持つF16戦闘機やF35Aステルス戦闘機などに搭載され、相手国の上空から投下する運用が想定されている。ドイツなど5か国における核反撃能力としての「核共有」は、ロシアに対する「核抑止力」としての機能を十分に果たしている。なぜなら、仮に、ロシアが上記5か国に対して核攻撃をすれば、5か国から核反撃を受けることが不可避だからである。共産党が言うように、「核兵器配備基地」が攻撃目標になるリスクはあるとしても、そのリスク以上に「核共有」の抑止力の有効性が大きいからこそ、ドイツなど5か国は米国との「核共有」を解消せずに現在も継続しているのである。
 
 中国外務省の副報道局長は、2月28日の記者会見で、「安倍発言は非核三原則や核拡散防止条約に違反する軍国主義勢力の危険な動向だ」(2月28日付「北京共同」)と述べ、日本の「核共有」に断固反対した。奇しくも、中国の主張は日本共産党の主張と軌を一にしている。近年、核戦力を含めた軍拡に邁進し、「尖閣危機」や「台湾危機」などの脅威を惹起する核保有国の中国には、日本の「非核三原則」などを持ち出して「核共有」を批判する資格は全くない。中国の批判は、日本に「核抑止力」を持たせず、中国の日本に対する「核」の絶対的優位性を維持確保するためであり、むしろ「核共有」の「核抑止力」としての有効性にお墨付きを与えているようなものと言えよう。
 
 日本の米国との「核共有」の有効性については3点あるが、2020年8月7日付「百花斉放」掲載拙稿「米国との「核共有」を検討せよ」を参照されたい。米国で最大の部数を誇る新聞「ウオール・ストリート・ジャーナル」も3月2日付社説で、その有効性について認め「安倍提案」を対中抑止の観点から高く評価し歓迎している。したがって、自民党及び日本維新の会は、「核共有」の議論だけではなく、前記ドイツなど「核共有」の5か国に早急に国会議員共同視察団を送り、「核共有」の実情を視察すべきことを提言する。そして、視察の結果を踏まえた真摯で具体的な議論の進展を期待したい。
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