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2007-07-28 09:45

「危ない中国産品」に冷静な日本の消費者

大江志伸  読売新聞論説委員
 世界にあふれる「メード・イン・チャイナ」の安全性をめぐって、世界規模の中国バッシングが起きている。健康どころか生命にもかかわる有害産品を駆逐するには、国際社会が結束して中国に是正を迫る必要があるのは当然のことだ。日本を含む西側の報道機関が競って有害な中国産品の告発に力を入れるのもまた当然だが、報道に携わるものの一人として刮目していることがある。活字媒体やテレビ報道の過熱ぶりとは対照的に、日本の消費者の反応、対応が極めて冷静なことだ。

 日本で中国産品とくに食品の安全性がクローズアップされるのは、今回が3回目といえるだろう。初回は改革開放政策を開始して間もない1980年代。中国では農薬の適切な使用方法が分からず、数百倍薄めるべきものを原液のまま使った中毒事故の多発が報じられ、関心を集めた。2回目は、日中間で問題となった2002年のホウレンソウ残留農薬騒ぎだ。3回目の今回は、米国が震源地となり、世界中に中国産品への不安が広がった。

 02年の残留農薬問題の際、消費者は警戒を募らせ、スーパーの店頭からは中国産の野菜、総菜類が消えた。これを機に、日本政府は、残留基準を超えた農薬や添加物を含む農産物などの販売を禁じる「ポジティブリスト制度」の導入を決め、昨年から実施した。それだけ、官民双方の衝撃は大きかった。今回は抗菌剤を使った中国産ウナギの輸入を敬遠するといった動きはあるものの、店頭から中国産品が消えるといったパニック現象は起きていない。なぜなのか――。

 有害中国産品の輸入国の視線は今、利潤最優先、モラル欠如、ルール無視といった中国社会の体質に集まっている。だが、輸入品の安全をチェックする責任は、もともとバイヤーが負う、というのが世界の常識のはずだ。日本が輸入する中国農産品の大半は、開発輸入に頼ってきた。つまり、日本企業が中国の産地で栽培法を指導するなどして日本向けに出荷する方式である。02年の残留農薬問題の後、日本の関連企業やバイヤーは安全確保に相当の労力を注いできた。政府の「ポジティブリスト制度」もそうした動きを後押しした。その結果「日本向けの中国産品は安全」という意識が、消費者間に静かに浸透したのは疑いない。それが感情的な反応やパニックを防いでいる。

 世界一厳しいとされる「ポジティブリスト制度」の導入を日本政府が決めた際、中国は激しく反発した。だが、実施後は中国の日本向け産地では安全、安心への配慮が格段に高まる副次効果が生まれている。信頼回復の手がかりは対日関係にあることに、中国政府は気づいているのだろうか。
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