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2007-07-20 05:57

アフリカから東アジア共同体を考える

石垣泰司  東海大学法科大学院非常勤教授
 7月はじめ国際会議出席のため南アフリカのケープタウンを訪れ、1週間滞在した。外務省現役時代アフリカに勤務する機会はなかったものの、出張では約10ヶ国を訪れたことがあるが、南アは今回がはじめてであった。ホストの南ア政府のアレンジで、ネルソン・マンデラが政治犯として投獄されていたロベン島博物館や17世紀オランダ東インド会社の奴隷宿舎として建てられ、何世紀にもわたって奴隷の売買取引が行われていたという「スレイブ・ロッジ」も見学したが、これは、オランダ、英国等列強による白人植民地支配が2度とあってはならないと厳しく糾弾する、まさにアフリカの「歴史問題」であると実感した。しかし、アパルトヘイト政策などは比較的最近まで実行されてきた筈なのに、現地社会は黒人、白人が上手に国家、社会の枢要ポストを分担し、共栄する統合社会の様相を呈していた。

  一方、同地に滞在中、現地の新聞等で盛んに報じられていたのは、丁度その頃、ガーナの首都アクラで開催されていた「アフリカ連合(AU)」の第9回サミット会合の模様であった。とりわけ今回のAUサミットの大きな議題として論議が行われたのは、現在53ヶ国から構成される「アフリカ連合」をできるだけ早期に「アフリカ連邦」に発展させ、「アフリカ合衆国」という統合体を建設するという構想についてであった。AUの生みの親とされ、その最も熱心な推進論者であるリビヤのカダフィ大佐は、会議直前にソマリア、ギニア、シエラレオネ等の諸国を歴訪し、支持を呼びかけるといった熱の入れようで、ギニアでの演説では「アフリカ諸国はそれぞれ独立しても生き残ることはできない。統一政府を建設し、200万人の軍隊を装備するほか、統一貨幣とパスポートを発行すべきだ。強大なアフリカ合衆国を建設してこそアフリカには前途がある」と訴えたという。同構想には支持者も少なくないが、地域の一体化プロセスを段階的、漸進的に行うべきであるとする意見が、多数の諸国から表明されたようである。

  将来における東アジア共同体の構築を願いつつも現実の状況を熟知するわれわれには、上記のような動きは如何にも唐突にして現実離れしたもののようにしか映らず、ピンとこないものもあるが、これを一概にカダフィ大佐の独り相撲と片づけられないのは、AU自身が2006年に発表した調査報告書「アフリカ連合政府:アフリカ合衆国へ向けて」において、アフリカ統一国家は、2015年にも可能とされ、3段階の具体的プロセスの試案も提示されているからである。AUは、すでに「欧州連合(EU)」にも似た地域統合体諸機関(委員会、総会、理事会等)を有していることが知られているが、2004年に「汎アフリカ議会」を設置済みであるほか、「アフリカ裁判所」を設立する議定書もつくられ、「アフリカ待機軍」の整備も課題とされている。 さらに、25ヶ国が参加し、AUも支援する「アフリカ開発のための新パートナーシップ」(NEPAD)の重要な柱の一つとして、「アフリカン・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)」(アフリカ域内相互審査システム)といった実際に機能しはじめているシステムがあり、これは、参加しているアフリカ諸国が相互にそれぞれのマクロ経済、金融政策の実施状況や民主主義と政治ガバナンス、社会経済開発等への取り組みを率直に審査し合うもので、南アにその事務局がおかれていた。

  アフリカではこのように地域統合に向けての現実の進展がみられていることを考えれば、今回のAUサミットで上記のような論議が行われたことも、少なくともアフリカ域内諸国にとっては、決して突飛な話ではなかったといえるのであろう。それにつけても、このような動きに接して改めて痛感されるのは、東アジアにおける共同体論議の進展の緩慢さと方向性が一向に定まらないことである。共同体づくりという観点からは、東アジアとアフリカに限らず他の地域との間にことほど左様な格差が生じてしまっていることに思いを致すべきであろう。
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