国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2021-01-21 21:52

法の支配への無理解こそチャイナ・リスクの根源

倉西 雅子 政治学者
 昨年、日本国の外務省は、秘密指定の解除により天安門事件に際しての日本国政府の一連の対応を記した公文書―‘天安門事件外交文書ファイル’―を公開しました。同文書は、中国、並びに、非人道的行為に対する当時の日本国政府のみならず自由主義国側の中国認識の甘さを改めて浮き彫りにしたように思えます。同文書には、天安門事件時における自由主義国諸国の動きも記録していました。中でも注目されたのが、当時のマーガレット・サッチャー首相の発言です。同年9月14日、駐英日本大使館での夕食会の席で「鄧小平は英政府も法律の下にあることをどうしても理解せず、国家が欲すれば法律を変えればよいと主張した」と述べ、時の最高権力者であった鄧小平氏が、法の支配を全く理解していなかった事実を述べています。そして、サッチャー首相は、「今日の中国の問題はまさにこの考え方に根源がある」と総括しているのです。
 
 中国がWTOに加盟していない1989年当時、日中間の経済関係や両国間の交流は未だに限られており、サッチャー首相の言葉を聞いても、日本国側の出席者の大半は、どこか実感が湧かなかったかもしれません。しかしながら、同首相の鄧小平評は、香港返還問題をめぐる鄧小平氏との間の交渉経験から得たものです。1982年9月から英中共同声明が発表された1984年12月19日までの凡そ2年半にわたって、中国の鄧小平と渡り合っていたのが当のサッチャー首相なのですから。
 
 サッチャー首相は、法の支配が有する立憲主義的な側面から鄧小平氏の無理解を嘆いていますが、法の支配は、自治、即ち、自由、並びに、民主主義を根底から支える価値でもあります。鄧小平氏が法の支配を理解できないとすれば、それは、法の支配のみならず、自由も民主主義の価値も理解していないことになるのです。法の支配への無理解は、鄧小平氏のみならず、その後の歴代の中国の指導者にも共通して見られます。そして、この無理解こそが、サッチャー氏が1980年代末にあって指摘したように、今日なおも中国問題の根源にあります。 
 
 今日、天安門事件の当時とは比較にならないほどに日中間のビジネスや交流は拡大しており、今ならば、当時のサッチャー首相の指摘は、日本人の多くも実感を以って受け止めたかもしれません。そして、今度こそ、自由主義諸国は、日本国を含めて‘中国は法の支配を解しない’という事実を警戒すべきでありましょう。法の支配への無理解こそ、チャイナ・リスクの根源であり、国際社会の安全と独立性を脅かしているのですから。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会