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2020-12-05 11:26

(連載1)王毅外相発言で動揺する政府の尖閣戦略

倉西 雅子 政治学者
 中国の習政権が戦争の準備に着手したとする情報が囁かれる中、尖閣諸島にも荒波が押し寄せています。中国公船による周辺海域での活動が活発化してきており、領海侵犯も頻繁に起きているようなのです。日本国側の再三にわたる停止要求をよそに、先日来日した際に王毅外相は、記者団を前にして日本漁船が同海域に入らぬように措置を採るように要請したというのですから、中国側は、一歩も二歩も歩を進めてきています。中国が尖閣諸島の奪取に向けて攻勢に出る一方で、日本国政府は、言葉だけの対応に終始し、具体的な行動を取ろうとはしていません。従来の日本国政府の立場を繰り返すのみで、戦略や政策が伴っていないのです。そして、この従来の立場にこそ、中国が高飛車な態度に出る要因が潜んでいるように思えます。 
 
 尖閣諸島に関する日本国政府の基本的な立場とは、「領土問題はない」というものです。茂木外相も、王毅外相の発言に関連して「尖閣諸島を巡り、解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」と述べています。この意味するところは、‘日本国政府が尖閣諸島の領有権をめぐって係争が存在することを認めたが最後、中国の言い分にも一理があることを認めたことになるので、仮に、同国から侵略を受けた場合、国際法上の侵略行為として認定できなくなる’というものです。つまり、自衛権を発動することが難しくなるのです(また、領土問題化すると、‘領土交渉’に持ち込まれて譲歩を迫られることに…)。
 
 この認識は、自衛権の問題とも関連している故に、厄介です。第一に、日本国憲法の第9条に関する日本国政府の公式の解釈は、自衛のための戦力は保持できるとするものです。仮に、中国の主張を認めて侵略認定ができなくなりますと、自衛権の発動とは言い難くなる、あるいは、自衛隊の出動を違憲として反対する声が上がる事態も想定されるのです。個別的自衛権に対する発動のハードルが高くなる一方で、集団的自衛権の発動にも支障をきたす可能性があります。その理由は、日本国政府は、中国が尖閣諸島を奪取した際に、日米安保の対象から外される怖れがあるからです。フォークランド紛争に際してアメリカは、同紛争をイギリスとアルゼンチン間の‘領土問題’とみなし、NATOを枠組みとする集団的自衛権を発動させませんでした。
 
 以上の側面から、日本国政府は尖閣諸島問題については‘領土問題は存在しない’とする立場を貫いてきました。しかしながら、この方針は、暴力主義を奉じる中国には無力であり、突然の領有権主張⇒棚上げ論⇒一方的領有宣言⇒実力行使…へと、中国の行動をエスカレートさせるのみでした。中国は、‘物量作戦’に転じたとする指摘もあり、このままの状態を放置いたしますと、中国は、尖閣諸島に対する日本国の実効支配を切り崩すことでしょう。日米安保条約の条文では、対象地域を日本国の施政権の及ぶ範囲としていますので、中国は、同島を自らの施政下に置くことで、米軍の介入を排除しようとするかもしれないのです。(つづく) 
 
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