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2020-10-13 23:44

(連載1)コロナ禍に対するトランプの反駁

斎藤 直樹 山梨県立大学名誉教授
 米国内でトランプ大統領がこれまで新型コロナウイルスへの対応に躓いたと厳しく批判されてきた。2020年10月11日現在、米国内で確認された同ウイルスの感染者数が771万9254人、死者数が21万4379人に達することを踏まえた時、どのような形でトランプが反論するにしても、そうした厳しい批判は否定できないであろう。他方、米国内で初動対応が厳しく批判されるトランプであるが、習近平共産党総書記とテドロスWHO事務局長が同ウイルスへの初動対応で重大な過失を犯したと痛烈な批判をトランプが繰り広げてきたことも事実である。後述する通り、2020年1月から今日に至るまで習近平とテドロスが講じた重大な対応策や下した決定に照らすと、トランプの批判に少なからずの理があると言わざるをえない。それにしても不可解かつ不自然に思えてならないのはテドロスが習近平のご機嫌をうかがい続ける姿勢である。この間、習近平は意識的か否か表にほとんど出ず、一貫して沈黙を続けている感がある。これに対し、トランプは事あるたびに習近平を擁護し続けるテドロスを痛烈に批判してきた。そうしたことから、トランプとテドロスが激しい論戦を続けるという展開がみられてきた。本稿は2020年1月から今日に至る間にトランプがテドロスや習近平に対しどのような批判を行ってきたかについて論じる。
 
 トランプが新型コロナウイルスへの対応に大きく舵を切る契機となったのは1月30日のテドロスによる「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言であった。その時点では同ウイルスの感染者数や死亡者数は中国に集中していた。習近平がテドロスに「緊急事態」宣言を遅らせるよう圧力をかけたかどうかは不確かであるとは言え、これがテドロスとWHOの判断を狂わすことにつながったと推察される。このとき、テドロスは「海外渡航と貿易を不必要に妨害する措置を講ずる理由はない」と誠に誤った勧告を発したのである。その後に起きる未曽有の感染拡大を踏まえたとき、テドロスによる宣言は重大な問題を包摂したことは明らかである。テドロスはこの時点までに99%の症例が中国国内に集中しているとし、それゆえに「海外渡航と貿易を不必要に妨害する措置を講ずる理由はない」と勧告したが、その後パンデミックを引き起こす最大の契機になるのは1月24日から2月2日までの「春節」時の莫大な数に上る中国人旅行者の海外渡航によるところが大である。WHOが1月30日まで「緊急事態」を宣言しなかったことは明らかに時機を逸した感がある。しかもテドロスは「ウイルスがより脆弱な防疫体制の国に拡散し、それに対処する準備ができない可能性である」と言及した。もしその可能性を真摯にテドロスが配慮したならば、一刻も早く海外渡航を制限しなければならなかったはずであったが、そうはしなかった。これ以降、海外渡航を制限するかどうかは各国政府の判断に委ねられた。
 
 WHOによる「緊急事態」宣言を受け、危機感を持ったトランプは直ちに動いた。1月31日にトランプは「公衆衛生緊急事態」を宣言した。その骨子は以下のとおりである。
・過去14日間に中国湖北省に滞在した米国市民が米国に帰国する際、14日間の強制検疫を受ける。
・過去14日間に中国本土の他の地域に滞在した米国市民は入国の際、空港で検査を受け、14日間の監視を受ける。
・また、米市民でない渡航者の米国への入国を一時的に停止する。
・「緊急事態」宣言は2月2日午後5時(米東部時間)に発効する。
この時点で、米国内で確認された感染者数は6人に止まり、死者は出ていなかった。このことから明らかな通り、トランプ政権の「緊急事態」宣言はウイルス感染が急拡大しうる可能性を踏まえ、それを未然に阻止するために発令されたものであった。これにより、米国への感染拡大を阻止することができたとトランプが考えたかもしれない。しかし想定をはるかに超える形で米国に感染が忍び寄りだしていた。その後の米国の感染者数および死者数の激増は世界でも突出している。まさかそうした事態に及ぶとは、トランプは想像できなかったであろう。
 
 その後、テドロスが3月11日に「パンデミックとみなせる」と宣言したが、すでに手遅れであった。このテドロスの宣言には幾つもの不可解な点がある。何故、1月30日に行われたWHOの「緊急事態」宣言から約40日も経過した3月11日に初めてパンデミックという評価につながったのか。テドロスによると、1月30日の時点で感染者のほぼ99%は中国に集中していたが、3月11日の時点で感染者は114ヵ国で11万8000人に激増していた。しかも「過去2週間で、中国以外でのウイルスの症例数は13倍に増加し、影響を受けた国の数は3倍に急増した」とテドロスが述べたが、それでは3月11日までの間に何故、テドロスは的確な対応を講じなかったのか疑問とならざるをえない。少なくとも2月の終わりまでに「パンデミックとみなせる」という評価を行うべきでなかったのか。(つづく)
 
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