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2020-09-03 20:52

(連載1)コロナの中で考えた「人間」と「倫理」の再認識

加藤 隆則 汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
 中国の携帯アプリ「ウィーチャット」で連日のように東京での生活を紹介しているが、中でもコロナに関し、特に反響の大きかったのは、医療従事者らへの感謝を呼びかけるバッジの話題だった。薄いブルーの布に「Thank you ALL helpers 感謝の気持ちを忘れないでいよう」「ご自由にお取りください。バッジを着けて覚えていよう」と書かれ、一面に様々なデザインのバッジが止められていた。自宅近くの商店街を散歩していて見つけたもので、聞くと、杉並区立の劇場「座・高円寺」が企画し、周辺の数か所に設置して無料配布しているという。中国では医師や看護師が感染し、犠牲となったケースが相次ぎ、医療従事者の献身と危険に関する認識が広く共有されていることも大きかった。官製メディアが一方的に「英雄」として宣伝するだけでなく、こうして幅広く庶民が自発的に気持ちを表現する方法に賛同する声も届いた。
 
 バッジの意義を説明する中で、社会における「仲間意識」の概念を説明しようとしたが、中国語の力が及ばなかった。「伙伴(huoban)」が一般的なのかもしれないが、「相方」や「パートナー」程度のニュアンスしかないので、感情面でのつながりがうまく表現できない。時代が古ければ「同志」がぴったりだが、すでに国有経済下の社会主義的同志意識は過去のものなので、現代の若者に実感はなく、男性同性愛者の隠語としてしか受け取られない。
 
 偶然とは不思議なもので、ふとしたきっかけで和辻哲郎著『人間としての倫理学』を開いていて、その答えを見つけた。「倫というシナ語は元来『なかま』を意味する」はっきりとそう書いてある。『説文解字』の解釈も「倫とは輩(ともがら)なり」である。『人間としての倫理学』には、「礼記に、人を模倣することは必ずその倫(なかま)においてすという句がある」との説明も加えられているが、『礼記』の原文は「擬人必於其倫」で、「人を比較する場合には同じ仲間、同じ基準でしなければならない」という現代の格言にもなっている。「擬」は「模倣」の意もあるが、ここでは「比較」の意であり、和辻の解釈は誤りだと思われる。これは余談だが・・・主眼はなかまが「倫」から生じ、「仲間」の漢字を当てられたことにある。
 
 「なかまは一面において人々の中であり間(あいだ)でありつつ、しかも他面においてかかる仲や間における人々なのである」こうした理解の上に立ち、人間の学として倫理学を打ち立てるため、人の「大倫」や「人倫五常(仁・義・礼・智・信)」といった人の道、父子・君臣・夫婦・長幼・朋友の人間関係における教えをとらえなおさなければならない。和辻はそう説く。本来中国語では世の中の意であった「人間」が、日本に伝わったのち、仏教の影響を受けつつ「人」そのものを意味するようになり、やはり仏教経典の「世間」が日常会話に入り込んだ。どこまでも「間」を重んじるのが日本の風土なのだ。(つづく)
 
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