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2007-06-25 18:42

タイが当面する課題と東アジアの将来

甲斐紀武  団体役員
 タイでは昨年9月のクーデタで停止された1997年憲法のあとを受け、目下新憲法発布への準備が着々と進んでいるようである。本年9月に新憲法の成立が見込まれ、その後に予定されている総選挙をもって軍政から民政への復帰を期待する向きもあるが、各種の情報を総合すると現在タイには、二つの内政上の懸案があるといえる。まずは中央におけるタクシン前首相の帰国問題、そして地方、すなわちタイ南部のイスラム系反政府武装勢力の問題である。いずれも新憲法の発効とは違った次元でタイの政局を構造的に不安定にしうるものである。

 まず、タクシン前首相の帰国問題であるが、クーデター以来海外亡命中のタクシン首相に対し、タイ政府は6月19日、同氏が6月末までに帰国し正当な裁判を受けねばならないこと、そのために必要な2ヶ月の期間の身柄の安全を保証するとの通告を行った。タイ国内にはタクシンの100名以上の側近の他に依然数万に上る支持者がいると言われている。とくに中央-地方の格差の是正に真正面から取り組んだタクシンには地方に根強い支持者層がおり、彼らは現行のスラヨット政権の地方軽視の姿勢に対する不満を抱いており、仮にタクシン氏が帰国が実現すれば、タイの政局を揺るがすことも大いに予想される。

 次いで、タイ南部のイスラム系反政府武力勢力の問題であるが、この問題に手を焼いた点ではタクシン政権もスラヨット政権も変わりはない。タイの総人口6,500万人のうち5%がイスラム教徒で、タイ南部のマレイシアと国境を接するヤラ、パタニ、ソンクラ、ナラチワットの4州に集中している。約100年前にマレイシアからタイに併合されたこの地域は、タイの国民統合過程でも背後に退けられていた傾向にあり、分離独立の気運が周期的に高まる地域でもある。いわば上記の中央-地方の格差問題とも異なる位相で扱われてきた存在なのだ。国民統合の貫徹しないまま国家が揺らいでいる状況ともいえる。

 上記2つの問題、すなわち中央-地方の格差、そして国民統合を経ずに揺らぎはじめた国家という課題は、東アジアのいくつかの国々が抱える問題を象徴する存在でもある。解決策が容易に見つかる性質のものではないが、複数の国が同様の問題を抱えている以上、等閑視したままでは東アジアの将来像をも左右しかねない。その意味では、当該国の取り組みもさることながら、問題解決に向けての地域レベルでの協力枠組みも視野に入れた対策を講じる必要があるのではないだろうか。
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