国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2007-06-22 11:30

連載投稿(3)北朝鮮問題の縮図としてのバンコ・デルタ・アジア問題

武貞秀士  防衛省防衛研究所統括研究官
 北朝鮮に対する金融制裁を一部で形骸化させながら、制裁を全面中止させる方向を目指し、その先に米朝関係正常化を睨んでいるのが北朝鮮である。6月21日、ヒル代表が電撃的に平壌を訪問した。これは、米国と直接協議をしながら、金融制裁全面停止にもってゆき、米朝関係正常化をしたい北朝鮮と、6か国協議を早期に再開して、2月13日の合意の路線が間違っていないことをはっきりさせたい米国の考えが、一致した結果であった。

 この北朝鮮の戦略は、実は核問題や6カ国協議に対する姿勢にみられる戦略と同じである。すなわち、米国との話し合いで、核開発問題関連の義務の履行は少しずつおこなうが、その過程で、韓国との交流を進めて、朝鮮半島問題は、南北で話し合う構造を作る。「核抑止力」は最終段階まで維持しつつ、南北交流、6カ国協議を継続するというプロセスを進めてゆけば、やがて、韓国では「北朝鮮の政策変化と南北交流の進展を振り返れば、朝鮮半島に米軍は不要になった」という世論が台頭して、米軍抜きの朝鮮半島の平和体制の構築が進むと北朝鮮は読んでいるだろう。そのとき、北朝鮮の核兵器の存在だけが突出してしまう。北朝鮮の「米国を中立化して38度線の現状を変えたい」という大戦略がこのとき現実のものになる。

 バンコ・デルタ・アジア問題では、北朝鮮の政策の一貫性が目立った。「2500万ドルを返してほしい」というよりも、「金融制裁をやめ、他の国家なみに送金活動を可能にしてほしい」という点に重点があり、その先の米朝関係正常化に照準が合っていた。金融制裁を解除させるための巧みな動き、国際社会での金融活動をすることへの保障追求という点で一貫していた。そして、それを水面下で巧みに中国が支えた。あいまいな形や、苦肉の策で、マカオの銀行口座の資金を北朝鮮に返還する作業に与することなく、中朝が金融制裁の撤廃にむけて、協力してきたという印象がある。そして、米国務省は送金に応じた。米国は大局的な立場で、6カ国協議再開を重視する立場から送金問題を処理したのだろう。財務省が金融制裁という法の執行を厳密に考えていたあいだは、やや時間が過ぎてしまった。バンコ・デルタ・アジア問題とは、北朝鮮問題の縮図だったのである。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会