国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2020-04-07 11:36

(連載1)西側のメガネだけから見ては中国の強靭さを見誤る

加藤 隆則 汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
 中国は、56の民族からなる14憶人が、それぞれ激しく自己主張をしている社会である。秦の始皇帝以来、厳格な法治にはアレルギーがあり、「合情合理」という言葉に表れているように、法家の説く理よりも儒家の説く情を重んじる。ルールは与えられるものでなく、自分たちで作っていくものだという発想で成り立っている。それにしても、ここまで徹底した管理には圧倒させられる。10数年の間、中国に住みながらつぶさに観察してきたが、中央の指示による統制はかなり徹底されている。それを隅々にまで拡大できたのは2012年末に発足した習近平政権7年間の実績にほかならない。徹底した反腐敗キャンペーン、不正幹部の摘発、イデオロギー統制によって、緩んだ官僚機構の綱紀が粛正され、末端にまで習近平の指示、意向が浸透する体制ができあがった。
 
 権力集中に功罪があることは言うまでもない。日本メディアの報道は、その表面的な批判に安住してしまうので、いつまでも真相に届かない。独裁の強化を批判する人たちはまず、胡錦涛時代、権力の分散によって腐敗が深刻化し、党指導部内のクーデターさえ計画されていたことに思いを致す必要がある。当時、領土問題で日中関係が極度に悪化した背景にも、こうした熾烈な政治闘争があったことは衆目が一致している。前政権に対する反省から習近平による権力の掌握、集中がスタートしている。胡錦涛政権時代、権力の分散による「不作為の10年」を嘆いていた知識人たちが、今度は手のひらを返したように権力の集中を批判している。私はこういうご都合主義には付き合わない。
 
 これもまた、多くの人たちがすでに忘れてしまっているが、習近平のバックには、共産党政権の正統を担う革命二世代、いわゆる「紅二代」の支持があることは忘れてならない。両親たちの世代が築いた共産党政権が、内部の腐敗によって分裂、崩壊の窮地に追い込まれた、との危機感が共有されている。個々の政策について立場の違いはあるが、党の支配を堅持するという原則論では一致している。内部分裂は党の崩壊につながるとの認識が、歴史的教訓として残されている。中国社会においては最も発言力のあるグループだ。
 
 2018年の中国憲法改正によって、国家主席について任期2期10年の上限が取り払われたことは記憶に新しい。西側メディアには悪評高いが、権威の強化にとっては極めて大きな意味を持つ。「あと数年で引退」が自明となった途端、権力が空洞化し、綱紀が緩み始めることは、過去の反腐敗キャンペーンが示している。独裁=悪という単純な図式だけでは、中国政治、中国社会の真相を正しく理解することはできない。もし習近平政権が脆弱だったら、と想像してみるのも頭の体操にはよいだろう。あらゆる問題が政権内の政治闘争とリンクし、例えば、米中貿易摩擦は取り返しのつかない泥沼に入り込んでいたかも知れない。新型コロナウイルス感染の対策でもより大きな混乱が起きていた可能性がある。今回、日本からの支援が美談としてもてはやされたが、それもかき消され、公式訪日の相談をするどころではなかったに違いない。巨大な隣国の政情が不安定であれば、日本が大きな影響を受けるのは必至である。(つづく)
 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会