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2020-03-24 13:25

(連載1)失われた日本人の信用と非常事態法

袴田 茂樹 CEAC有識者議員/新潟県立大学教授
 今回の新型肺炎(新型コロナウイルス)事件に関して、最も印象に残った言葉は、自治医大教授でWHO(世界保健機構)の西太平洋地域事務局長もしていた尾身茂氏の「政府も一人ひとりの国民も『ウイルスとの戦争』という強い意識で取り組むべき」との警告だ(読売新聞 2.28)。この記事の少し前に開催された政府閣僚級の緊急対策会議に、何人もの閣僚が選挙の地元行事を優先して欠席したことも報じられた。これら閣僚たちは当時、新型肺炎問題を、政府が取り組むべき最優先課題とは考えていなかったのだ。もちろん政府も国民も過度のパニックに陥るべきではないが、しかし尾身氏の言は当然の警告であろう。
 
 今の日本はたしかに「戦時」とも言うべき非常事態への対策が必要な時だ。しかし驚くべきことだが、今でも日本人にはそのような対策を、「軍国主義への道」と警戒する心理も強い。2月27日に、7政党と無所属議員が災害時医療船舶利用に関する議連を結成して緊急の対策として、病院船の建造や中古船の改造について検討した。何とその時、野党議員から「病院船が軍事利用されないよう議論を監視したい」との発言があったという。この野党議員にとって病院船を造る問題よりも「議論の監視」のほうが切実なのだ。もはや、何をか言わんやである。
 
 かつて法学者の西修氏(現駒沢大学名誉教授)は、参議院憲法審議会で「憲法にも法律にも非常事態に対する何らかの措置も予定しない国は、一見立憲主義に忠実であるかのように見えて、実はその反対に転落する危険性を含む」と述べた。わが国がまさにその状況にあることが、今回の事件とその後の対応ではっきりした。この事件で痛感するのは、わが国民および政府の危機状況というものに対する意識の低さと後手後手に回っている対応の拙劣さだ。クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号では、約3700人の乗客、乗員の内、634人が感染したと報じられた。しかし、一定の経過観察を経て検査で陰性が認められ人たち970人が2月21日までに「上陸許可証」を得てクルーズ船から解放されたと報じられた。
 
 私が驚いたのは、ダイヤモンド・プリンセス号から下船した人の多くが公共交通機関で自宅に帰ったということである。陰性と認められて下船した日本人や、チャーター機で帰国したオーストラリア人、米国人の中から、その後の検査で陽性と判明した人たちが相当数いることも今では明らかになっている。中国の武漢から1月29日に日本のチャーター機一号機で帰国した206人の日本人の中に、日本での検査と隔離を拒否したため自宅に返した人が2人いたことには、世論も動揺した。厚生労働省は当時、「政府には法的に隔離する権限がなく、強制すれば人権侵害になる」と説明した。安倍首相も国会で、「長時間説得したが法的には他に方法がなかった」と述べている。他方で同件に対し、フランス、オーストラリア、韓国などは、武漢などからの帰国者全員を最長で2週間隔離措置するという方針を立てている。これが医学的に適切であろうに、日本では法的にそれが出来ないのだ。(つづく)
 
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