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2019-09-17 09:09

安倍外交への一つの見方

中山 太郎 非営利団体非常勤職員
 最近、安倍外交を評して上手くいっていないとの評価が多い。これに対し私見を述べてみたい。ホルムズ海峡への有志連合への米からの参加要求は、頭の痛いところだ。今やライバル関係となった韓国は、参加を表明している。安倍内閣になり、安保関連法案は、内閣の支持率低下にめげず、次々に可決させたが、根本の憲法を何とかしなければどうしようもない状態だ。それに、今の東アジアでの中国の我が物顔の動きへの対応で、現在の日本の防衛力はアップアップの状況だ。一方、中国は、日米離間を狙ってか、評判を落としている「一帯一路」政策へ、途上国支援で信頼のある日本を巻き込もうとしてなのか、しきりにすり寄ってきている。日本とイランは、長年の親密な交流もあり、キリスト教対イスラム、米国対イランの歴史的怨念とも距離があり、対応の苦慮するところだ。ボルトン補佐官が解任され、トランプ大統領が融和的態度を見せたところで、今回のサウジへの石油施設攻撃で、米はイランが黒幕だと怒りの声明を出している。千変万化する国際情勢は、時に鳥の目で、冷静に俯瞰し静観することも必要なのかもしれない。

 今年来年と日本は、ラクビーワールドカップ、皇室行事、五輪と大型国際行事が目白押しだ。皆忘れているようだが、かってソウル、名古屋が五輪の開催を争った際、国際的見方は名古屋のほうが大分評判が良かった。政府は、あまり関係しなかつた。そのすきを突かれ、また当時は汚職にまみれていたIOCへの凄まじい攻勢で、見事に負けてしまった。今回、安倍政権は陰ながら大分テコ入れを行い、見事当選を得た。この11月には、世界の10億以上の信者のみならず、西側精神世界に強い影響力を持つ、ローマ法王が訪日する。これも、安倍総理らが、専門の外交官を外し、特に経団連の副会長をバチカン大使にあてるなど、緻密な布石が実った一例だ。ロシアとの関係で、確かにあれだけの首脳交流を重ねていたのに、領土の一つも帰ってこないのは残念だが、もし帰ってきていたら、日本は多大なインフラ整備費負担を強いられ、あまつさえ地頭の良い政治屋の利権となってしまったかもしれないとも考えられる。地政学的に見れば、ロシアを少なくとも西側と同じテーブルにつかせることは喫緊の重要なことだ。安倍総理は、トランプ大統領とともにG7へのロシア復帰を目指している。少なくとも、ロシアと日本との会話の糸口はできた。これを今後どう活用して、かって栄えた新潟はじめ日本海側諸都市振興の後押しが出来るかだ。

 反日カードをいたずらに振り回し、ナショナリズムをあおる今の韓国の態度は残念だが、ある米国人学者が、米国と中南米諸国との関係をひいて、日ごろいろいろ世話になっておきながら、国内政治が行き詰まると反米感情をあおり、国内での求心力を得ようとするのはよくある。彼らも生存のために、右顧左眄して必死なのだと達観するよりほかはないとも述べていた。日本の保守の一部の人から、自民党内の親中派の中国への媚び方が怪しからんとの声も聞かれるが、中国での仕事の経験からすると、こうしたビヘービアはしかたがないことだ。日本では安倍総理を声高に批判しても、貶しても、牢屋に入れられることはないが、中国ではそうではない。下手するともっと悲惨な事態が待っている社会なのだ。独のメルケル首相が、独企業の幹部たちを引き連れ、最近中国を訪問したが、日ごろの人道主義を標榜する姿はまるでなく、新疆のイスラム教徒弾圧、香港での大規模デモについてまったく封印し、もみて、低頭しての姿だった。どの国も生存のために懸命なのだということだ。

 日本の対中国経済関係は、今や輸出輸入とも第1地位を占める。間接交流を含めると、GDPの3-4割を占めると言ってもよいだろう。昔の冷戦時代と違い、世界中の経済関係が入り組んでいて、白黒ハッキリ割り切れないのが現状なのだ。文芸春秋10月号の日韓断絶特集の藤原正彦氏の論述は面白かった。同氏は、日本政府の対韓国への外交スタンスを評価するとともに、ご自分の幼いころ同地の人から掛けられた「惻隠の情」で生き延びたことを記している。1945年8月9日、ソ連の無法な条約破りの満州侵攻で、父親はシベリアへ抑留され、母と幼子3名で朝鮮半島経由帰国した時の苛烈な経験だ。母は、同氏に「(同地の人は)涙を知っている人だった」と述べていたと記している。この記事から読み取れることは、日頃大言壮語していた人たちが、誰もいない状況を作り出した指導者たちの情けなさだ。政治外交の仕事の第一は、こうした苛烈な場面に居合わせない状況を作らないことだ。日頃から戦略の精度を研磨してたゆみない努力を重ねていることだ。政治外交は時に、パーフォーマンス、格好の良さを見せることは大事かもしれないが、それは第2のことで、泥臭くとも無様であっても、したたかに国民の安全生存を図ってゆくことが第一だ。
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