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2007-05-18 05:44

米国の関与なしに着実に進展続ける東アジア共同体構築

石垣泰司  東海大学法科大学院教授
  4月末から5月はじめにかけての我が国にかかわる主要な動きのうち次の2つを取り上げ、東アジア共同体構築に向けての関連性と意味合いを考えてみたい。 その1つは、4月26,27両日の安倍総理の訪米であり、他の1つは、5月5日京都で開催されたASEAN+3財務相会議での合意である。

  まず、安倍総理の訪米は、1泊2日という短期日の訪問であったが、発表された首脳会談の概要や日米共同声明文書等をみる限り両国が強い関心を有する多様な問題がことごとく取り上げられ、それぞれに対する日米両国の基本的立場が言及されるという、かなり濃密な実質的内容のある訪問であった。注目されるのは、首脳会談で日米豪の協力を強化することで一致し、また安倍総理より「アジア太平洋地域」における主要民主主義国が対話と協力を深める必要があるとの発言があったとされていることである。

 「東アジア地域」協力についてはいずれの側からも特段の言及がなかった代わりに、「グローバル貿易、エネルギー及び環境に関する課題に対処するための日米協力」文書の中で「安倍総理とブッシュ大統領は、アジア太平洋地域の将来を形成する主導的なフォーラムとしてのアジア太平洋経済協力を確認し、長期的展望として、あり得るアジア太平洋の自由貿易圏(FTAAP)構想を含む、環太平洋の経済統合を加速するためのAPECの努力への強力な支持を表明した」と明記されていることである。これを要するに、現時点においては、累次のASEAN+3サミットや第2回東アジアサミットを経て展開されてきている東アジア地域構成諸国間の地域協力の進展の動きには、米国として現在なお特段の関心がなく、本問題は日米首脳会談のアジェンダに未だ入るに至っておらず、米国としてはアジア太平洋経済協力の枠組みとしてはAPECが最重要かつそれのみで十分であり、日本としてもそういうことでとくに異存ないということである。

  一方、5月5日開催されたASEAN+3財務相会議は、まさに今日の東アジア共同体構築に向けての機運の高まりの直接の契機となった1997年のアジア通貨危機を受け、ASEAN+3間で合意された「チェンマイ・イニシアチブ」について、これまでは2国間協定で個別に行われてきた協力を今後多数国間協定で実施できるようにするための検討を開始することで基本的に合意した。あらかじめ各国が外貨準備の中から一定額を拠出しておき、外資が急激に資金を引き揚げるなどして通貨が急落した国に対し買い支えに使う外貨を、その国の通貨を担保に貸し出す拠出金制度を新設する方向で、各国の調整を行っていくという。総額、外貨の拠出先、各国の拠出割当額等制度の詳細は今後詰めることとなったという。さらに、経済発展に必要な資金を域内で調達するため債券市場を活性化させる「アジア債券市場育成イニシアチブ」を進める方針でも一致したとされる。

  これらは、ASEAN+3間の機能的協力の柱の1つである金融協力についての重要な具体的進展であり、米国より特段の関心が寄せられることなしに関係諸国間で東アジア共同体構築に向けた各分野の具体的協力が着実に進みつつあることを示している。少なくともブッシュ政権の間はこのような構図に基本的変化はなさそうである。
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