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2019-07-27 13:56

(連載1)輸出規制の衝撃と先鋭化する日韓対立

斎藤 直樹 山梨県立大学教授
 経済産業省が7月1日に「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」を発表したことを発端として、日韓での非難の応酬がかつてないほどに高まっていることは周知のとおりである。同「運用の見直しについて」の骨子は簡潔で明瞭である。それによると、「・・日韓間の信頼関係が著しく損なわれた」状況の下で、「輸出管理をめぐり不適切な事案が発生した」ため、輸出管理制度における韓国に対する優遇措置を停止するとある。そのために同「運用の見直しについて」は以下の措置を実施することを定めた。第一に「1.大韓民国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し」として、「本日(7月1日)より、・・いわゆる「ホワイト国」から大韓民国を削除するための政令改正について意見募集手続きを開始します。」第二に「2.特定品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え」として「7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の大韓民国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転・・について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととします。」これに従い、経済産業省は7月4日に半導体原料のうち、上記の三品目について対韓国輸出の優遇措置を取りやめた。
 
 加えて、8月に韓国を「ホワイト国」から除外する手続きに入る予定である。「ホワイト国」とは安全保障の上で友好国であると判断した27カ国を指し、「ホワイト国」に限り輸出管理制度における優遇措置を適用してきた。日本政府は2004年から韓国を「ホワイト国」と認定し優遇措置を適用してきたが、上述の事由で「ホワイト国」から外すことにより「普通の国」の扱いに戻ることになる。この結果、上記の三品目に加え多数の品目についてもそのつど個別に輸出許可の取得を日本から得ることが必要となる。ところでこの発表が文在寅政権に与えた衝撃は甚大であった。同問題への対応を急遽、指示された韓国産業通商資源部が右往左往したことは想像に難くない。成允模(ソン・ユンモ)同資源部長官は7月1日に、「・・今後WTOへの提訴を始め、国際法と国内法によって必要な対応措置を取っていく」との方針に言及した。これ以降、幾度かにわたり日本側を文在寅大統領が非難しているが、最も強硬ととれる発言は7月15日の青瓦台での首席・補佐官会議の発言であった。文在寅は席上、「・・前例のない過去の問題を経済問題と連携させて両国の発展の歴史に逆行する非常に賢明でない処置」であると、輸出規制をいわゆる「元徴用工問題」に対する対抗措置として位置づけ、「・・日本は韓国経済が一段階高い成長を企図している時期に韓国経済の成長を遮ったのも同然である。・・日本の狙いがそこにあるなら決して成功しないだろう。・・結局、日本経済により大きな被害が及ぶことを警告する」と言い放ったのである。
 
 今回の輸出規制の背景に、2018年の秋以来、積りに積もった文在寅政権に対する日本側の不信感があったことは事実であろう。このことは昨年の秋以降の日韓のやり取りを時系列に整理したとき、明らかである。実際にこの間、日韓関係に打撃を与える事件が続発している。その発端になったのが2018年10月に起きた旭日旗掲揚問題であった。こうした時期に合わせたかのように、「元徴用工問題」に対する韓国の最高裁にあたる韓国大法院の判決がでた。2018年10月30日に韓国大法院は日本統治時代に韓国人労働者が日本企業に強制的に労働させられたとし、日本製鉄(当時、新日鐵住金)に対し損害の賠償を認める最終的な判決を下した。続いて、11月29日に大法院は三菱重工業に対しても同様の判決を下した。これにより同問題に対する対応が一気に重大事案として浮上した。こうした状況悪化の中で発生したのが「レーダー照射事件」であった。20182年12月20日に日本海の日本の経済水域内で海上自衛隊のP1哨戒機が哨戒活動をしていたところ、韓国海軍の駆逐艦が突如、火器管制レーダーを照射するという事件が起きた。日本政府はまもなく韓国政府にレーダー照射は危険な行為であると抗議すると、文在寅政権はレーダー照射の事実を否定すると共に、哨戒機が韓国海軍駆逐艦に接近したことに問題があるとして猛反発に転じた。
 
 「レーダー照射事件」を巡る事実関係に対する文在寅側の主張に明らかな疑義が持たれるにもかかわらず、日本側による説明を事実無根として反駁する姿勢に日本側の不信感が極限まで高まった。その後、同事件の真偽はうやむやになったままである。その後、「元徴用工問題」への対応を巡り日韓関係は悪化の一途を辿りだした。10月30日の韓国大法院による判決に対し、安倍内閣は1965年の日韓請求権・経済協力協定に従い問題解決に向けての対応を文在寅政権に求めた。まず同協定の第3条1項に従い、2019年1月9日に二国間協議に応じるよう安倍内閣が要請すると、文在寅政権は綿密に検討するとしたものの何の回答もないまま、4カ月以上が経った。続いて、5月20日に同協定の第3条2項に従い日韓両国が選定した仲裁委員会の設置を安倍内閣が求めたが、文在寅政権は慎重に検討中として仲裁委員会設置の期限である6月18日を迎えた。これに対し、安倍内閣は6月19日に第3条3項に従い第三国選定による仲裁委員会の設置を求めたが、これまた音沙汰がないままであった。(つづく)
 
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