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2019-07-01 16:25

香港と日本の若者の違い

伊藤 洋 山梨大学名誉教授
 香港の林鄭月娥行政長官は6月18日、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を支持して歴史的な抗議活動を招いたことには個人的な責任があるとして、謝罪した。「逃亡犯条例」とは何か。「天安門事件」から30年、当の中国人ばかりではない、世界中の人々にとっても否が応でも思い出さずにはいられない悪夢の記憶。それを多くの人々が回顧している時もとき、中国「本土」で「罪」を犯した者が香港に逃亡してきたら、香港の官憲が彼を捕縛し、中国「本土」に引き渡すことができるとする法律である。
 
 もとよりここでいう「容疑者」は一般論としての「容疑者」の風を装っているとはいえ立法の主眼は、反政府の政治犯をターゲットにしていることは誰でも分かる。つまり、習近平政権にとって面白くない人物が香港に「逃亡」したら、これを捕縛して中国本土へ護送せよという北京政府の要求に応える法律をつくろうというのが香港政庁の腹であろう。
 
 あの「天安門事件」では中国本土から少なからざる学生たちが香港に逃げて来た。それを探索する中国官憲の執拗な追跡もあった。多くの活動家は、そこから欧米などへと逃亡していった。その生々しい記憶が30年の時を経て人々の脳裏に戻ってきたがゆえにかくも激しい反対運動を惹起したのであろう。今は故人となった筆者の友人で、北京大学の学生時代、まさに胡耀邦主席の死を聞いた「あの時」天安門へのデモを呼びかけた一群の活動家の中にいた一人。彼は容認から弾圧へと中南海政府の方針が急転すると、実に要領よく運動から身をとっさに引いた。ためにその後大学教授への道が残っていた。しかし、その「裏切り」への負い目は彼の人生を通じて常にあったことが彼の発言の隅々に感じられたものである。かくのごとく、天安門事件はその後の人々の心にくすぶり続ける宿痾となった。その記憶がこの香港での大衆デモにつながったのであろう。
 
 それにしても、香港の若者たちの「歴史認識」には彼我の違いの大きさにおいて驚くばかりである。これこそ、近代英国統治100年の数少ない正の遺産なのかも知れない。他方、ある女子大学の教員である友人の話だが、かつて日本がアメリカと戦争をしたという「歴史」を知らない学生が教室の3分の1いたという。香港の大学生たちの歴史認識との大きな違いである。歴史は過去を学ぶのではない。歴史は未来を学ぶためにある。歴史を学ばざる者の未来は昏い。香港の若者の抵抗を見ていて彼我の優劣について暗い気持ちに陥った1週間であった。
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