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2007-05-07 09:49

「俵物三品」と日中関係の今昔

櫻田 淳  東洋学園大学准教授
 「俵物三品」という言葉がある。それは、中華料理の高級食材である干海鼠(煎海鼠)、干鮑、鱶鰭を指している。江戸期、鎖国をしていた日本が対蘭貿易と並び例外として行っていた対清「唐船貿易」の文脈では、特に元禄年間前後以降、重要な輸出品として位置付けられたのが、この「俵物三品」なのである。

 時は下って21世紀に入り、中国では「俵物三品」に対する需要が急増している。1990年代以降、「改革・開放」の波に乗って続々と登場した中国の富裕層は、自らの「成功」の証しとして、この「俵物三品」を食卓に所望するようになったのである。故に、「俵物三品」の国内価格は、近年では高騰の一途を辿り、主要産地である東北三陸海岸から北海道にかけての一帯では密漁の増加に対する懸念が深まっているようである。

 「俵物三品」を介した日中関係の風景が元禄年間以降の「伝統」を持っているというのは、誠に興味深い事実である。「俵物三品」に燕巣を加えた「珍味四品」は、『満漢全席』を成す料理で使われる点では、「中国文化」を支えるものであろうけれども、それを提供しているのが日本なのである。

 豊かさを謳歌し始めた中国の事情を考えれば、中国国民の所望に応える「俵物三品」を日本が適切に用意できるということは、日中関係、そして東アジア情勢の安定に寄与する一つの条件になるであろう。個人であれ国家であれ、安定した関係を担保するのは、「互いに互いを必要とする」ということである。中国が日本の「資本」だけではなく、「食材」という人々の実感に根差したものまでも必要とするようになれば、中国政府にとっては、対日摩擦を無用に煽る振る舞いは、決して賢明なものではなくなる。大概の人々にとっては、一旦は上げた生活水準を再び下げ、一度は食した「珍味」の味を忘れることほど、不愉快なことはない。国際政治における「安定」を担保する条件は、身近なところにあるのである。
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