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2019-03-19 08:01

(連載1)第2回米朝首脳会談決裂から米朝対立局面へ

斎藤 直樹 山梨県立大学教授
 2月27、28日にハノイで開催された第2回米朝首脳会談が事実上、決裂したことは事前の予想を覆すものであった。とは言え、初日の27日の夕食会から両首脳の間で火花が散っていたことが明らかになった。金正恩・朝鮮労働党委員長は寧辺(ヨンビョン)核施設を廃棄する見返りとして、2016年と2017年に採択された5件の国連安保理事会決議の解除を要求した。これらは実質的な北朝鮮に対する経済制裁の中核を構成していることから、トランプ大統領からみれば、「経済制裁の全面解除」に相当する見返りであった。金正恩はいきなりトランプの本陣目がけて切り込んだことになる。これに対し、「経済制裁の全面解除」に応じるためには寧辺核施設だけでなくそれ以外の核関連施設、核弾頭や核物質などあらゆる核関連活動の申告、さらには弾道ミサイル、生物・化学兵器の廃棄など「完全な非核化」措置が必要であるとトランプは切り返した。これに対し、米朝間には信頼関係が十分に醸成されていないとして金正恩はトランプの要求を拒否したとされる。とは言え、実際のところ寧辺核施設の廃棄以上の非核化措置に金正恩が応じるつもりは最初からなかったことが明らかになったに過ぎない。
 
 このことは2018年9月19日の「平壌共同宣言」の文言にあるとおりである。米国が「相応措置」を講ずるならば、北朝鮮は寧辺核施設の廃棄に応じる用意があるとした「平壌共同宣言」を踏まえると、金正恩にとって寧辺核施設の廃棄こそが「完全な非核化」なのである。トランプがその他の核関連施設の廃棄の要求を突き付けたときは、上述の通り信頼関係が醸成されていないとして拒絶するつもりだったと推察される。
 
 他方、金正恩の思い違いは寧辺核施設の廃棄を持ち出せば、上述の国連安保理事会決議に基づく経済制裁の解除をトランプが受け入れるであろうと安直に考えたことである。寧辺核施設は最大級の核関連施設であるとはいえ、北朝鮮領内に点在する核関連施設の一つに過ぎない。その廃棄の見返りとしてトランプが言うところの「経済制裁の全面解除」を要求したのではトランプにとって明らかに釣り合わない取引であった。首脳会談前に行われた米朝実務者協議の内容が必ずしも明らかになっていないが、実務者協議で米国側はそうした「経済制裁の全面解除」には応じられないことを北朝鮮側へ明示していたとされる。にもかかわらず、トランプが首脳会談で「経済制裁の全面解除」に応じる可能性があると金正恩が読んだとすれば、金正恩に相当の思い違いがあったことになる。しかも2019年元旦の「新年の辞」において金正恩が開城工業団地や金剛山観光事業に代表される南北交流事業の再開などの経済制裁緩和措置を求めていたことを踏まえれば、一足飛びに「経済制裁の全面解除」要求に突き進んだことは驚きである。
 
 どうしてそうした思い違いを金正恩は起こしたのであろうか。一つにはロシア疑惑やメキシコとの間の壁建設予算を巡り民主党と激しく対立するトランプが性急な外交成果をあげようとして多大な譲歩をする可能性があると金正恩が思い違いをした可能性がある。国内問題で窮地に立たされたトランプが米朝首脳会談の開催を快諾したことこそ金正恩が千載一遇の機会の到来と考えた節がある。寧辺核施設だけの廃棄で「経済制裁の全面解除」が得られるであろうと金正恩は希望的観測をめぐらしたと推察されよう。(つづく)
 
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