国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2007-05-04 02:00

アジアにおけるバランサーとしての米国

河東 哲夫  Japan-World Trends代表
 これまでは小泉・ブッシュの密接な関係があって、日米関係は揺るぎもなかったが、それが終わってみると、冷戦後の日米関係の再定義を怠ってきたことが表面化し、両国において日米同盟の意味についての議論が起きている。日本の世論においては、北朝鮮の核への対応などをめぐって日米安保への疑念が表明されるようになった。他方、今回米国に行って気がついたのだが、彼らは最近の日中、日韓関係などを見ていて、「戦後初めて、『日米安保のせいで米国が無用な紛争に巻き込まれるのでないか』という恐れが生じ」(ある米国人専門家の言)ている由。まるで、戦後の日本世論が日米安保に対して感じてきた懸念を引っ繰り返したようなものである。

 これが意味するところは、日本が一方的に攻撃でもされない限り、東アジアにおける米軍は日本を守るというよりは、東アジアにおける安定を守る重し、バランサーとして観念されるようになってくるだろう、ということだ。そして、アメリカとの関係さえ良ければ中韓との関係はうまく行くという、小泉時代のアプローチももう通らなくなってきたということだ。今回の安部総理訪米ではなんとかすり抜けたようだが、慰安婦の問題がその象徴である。

 日本では現在、米国が北朝鮮の核、拉致問題などで日本の望むようには動いてくれていないことで、自主防衛、核武装を呼びかける声も上がっている。しかし米軍が日本から去った場合、上記の事情を考えると、アジアにおける局面の展開次第では米国が日本に軍事的圧力をかけてくる場合さえ想定される。だから、米国との関係を感情で処理してはならない。サンフランシスコ講和条約以来、日本が日米安保条約を維持してきたのは、それが日本の繁栄に資していることを認める、国民の暗黙の支持があったからではないだろうか? でなければ、自民党政権はあれほど長期には続かなかっただろう。現在も、日米安保がなければ、日本は東アジアで「裸」となり、周辺諸国から数々の無理無体な要求に直面することとなるだろう。

 それが対米従属でいやだ、と言うなら、「キレル」以外の方法で自分の立場を良くするよう、努力すればいい。ある程度はできる。それ以上は、基本的な国力の差、日本が置かれている地政学的な位置などに鑑みて、無理な背伸びをするべきではない。そこは割り切るのだ。他の大国と比べてみると、米国は今でもパートナーとするには最良の国、人々なのだ。離れるより、つきあう方法を考える方がいい。米国の力はBRICsなどとは比較にならないしっかりしたもので、これからも人口が大きく増えるので経済も伸びるであろうこと、そして戦後60年続いてきた自由貿易体制には今や日本を含めた全てのアジア諸国がその繁栄を依存していること、米国を孤立化させた場合、世界は政治的安定を保証してくれる存在を失い、モノ、カネの取り引き、移動、外国への直接投資は大きく限定されて、世界は大混乱するであろうこと、などを念頭に置いた上で、日米関係のあるべき姿を考えていくことが必要だ。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会