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2019-02-12 23:49

(連載1)ぎくしゃくする日韓関係の背後に潜むもの

斎藤 直樹 山梨県立大学教授
 振り返ると、2018年1月を迎えるにあたり一触即発の感のあった朝鮮半島情勢は、同年を通じ緊張が確実に緩和したことは事実である。トランプ大統領との接触を是が非でも図りたい金正恩・朝鮮労働党委員長の間を仲介し、米朝関係の改善に文在演・大統領が奔走した感がある。9月中旬に平壌で開催された第3回南北首脳会談を契機として、文在演は形振り構わず金正恩に擦り寄り出した。対北朝鮮経済制裁の一日も早い緩和や解除を実現したい金正恩の真意を掴んだ文在演は、その緩和や解除に向けて機敏に応じようとした。その文在演が行おうとしたのは北朝鮮に対する韓国独自の経済制裁の解除であったが、トランプのひんしゅくを買う羽目になった。独自制裁の解除をトランプから止められると、文在演は国連安全保障理事会の常任理事国を占めるイギリスやフランスなどの首脳達に対し同理事会で採択された対北朝鮮経済制裁決議に基づく制裁の解除に向けて理解を得ようとしたが、功を奏さなかった。
 
 その背景には、安倍首相がこれらの首脳達に解除に応じないよう働きかけたことが大きいと、少なくとも文在演は捉えているようである。2018年の秋頃から南北関係が著しく改善されているのと同時並行するかのように日韓関係を表立ってぎくしゃくさせる出来事や事件が続発している。その中心にいるのは紛れもなく文在演である。その発端になったのが、2018年10月に起きた旭日旗掲揚問題であった。日本は韓国の済州島で10月11日に開催の国際観艦式に海上自衛隊を派遣する予定であったが、海上自衛隊の軍艦旗が旭日旗であることを事由に掲揚を止めるように韓国側から求められた。それまで旭日旗の掲揚が取り立てて止められることはなかった。これに抗議する形で日本は派遣を取り止めるという経緯があった。これはその後に起きる一連の出来事や事件の端緒となった感がある。
 
 まもなく「徴用工問題」が突如、表出した。1965年に日韓国交正常化を実現した日韓基本条約が締結された際に、日韓請求権協定が結ばれたのは周知の通りである。日韓請求権協定は日本が韓国に対し無償3億ドル、政府借款2億ドル、民間借款3億ドルからなる計8億ドルに及ぶ巨額の経済援助資金を提供する一方、韓国は一切の請求権を放棄する内容であった。その後、日韓両政府は一貫して同問題は日韓請求権協定に従い解決されたとの姿勢を踏襲してきた。ところが、2018年10月30日に韓国の最高裁にあたる韓国大法院は日本統治時代に韓国人労働者が日本企業で強制的に労働させられたとし、現在の新日鉄住金に対し損害の賠償を認める最終的な判決を下した。続いて、11月29日に韓国大法院は三菱重工業に対しても同様の判決を下した。この間の11月21日に文在演政権は2015年の日韓慰安婦合意にしたがい設立された「和解・癒やし財団」を解散する挙に出ている。
 
 こうした状況悪化の中で発生したのがレーダー照射事件である。2018年12月20日に日本海の日本の経済水域内で海上自衛隊のP1哨戒機が哨戒活動をしていたところ、韓国海軍の駆逐艦が突如、火器管制レーダーを照射するという事件が起きた。日本政府はまもなく韓国政府にレーダー照射は危険な行為であると抗議すると、文在演政権はレーダー照射の事実を否定すると共に、哨戒機が韓国海軍駆逐艦に接近したことに問題があるとして猛反発に転じた。その後もレーダー照射問題は落着していない。2019年1月24日に韓国国防部が前日にP1哨戒機が韓国海軍駆逐艦にまたしても極度な低空飛行で接近してきたと抗議し数枚の画像を公表した。これに対し、海上自衛隊幹部はそうした事実はないときっぱりと否定したものの、その後もこの問題は収まっていない。また同日、前韓国最高裁長官である梁承泰(ヤン・スンテ)氏が突如、逮捕されるという事態に発展した。梁承泰に向けられた容疑は元徴用工訴訟の判決を意図的に遅延させたというものであった。ここまで来ると、文在演政権の暴走はもはや止まらないところまで来ているとの感がある。(つづく)
 
 
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