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2019-02-04 22:01

(連載1)第2回米朝首脳会談に向けてのつばぜり合い

斎藤 直樹 山梨県立大学教授
 2018年6月12日の米朝首脳会談以降、北朝鮮の非核化は遅々として進んでいない。その主な責任は非核化の履行に真摯に取り組もうとしない金正恩・朝鮮労働党委員長にある。同首脳会談で表明された「共同声明」において「完全な非核化」に合意しながら、金正恩は非核化の合意を全く履行しようとしないと映る。北朝鮮領内で行われている核関連活動の全容を盛り込んだ申告の提出があって初めて「完全な非核化」の完遂に向けて前進することは周知の通りである。この点から、6月の米朝首脳会談を受けトランプ大統領が直ちに申告の提出を金正恩に要求したものの、金正恩が提出を断固、拒否している。2018年の段階で米国の情報機関は北朝鮮領内には40から100もの核関連施設が点在し、秘匿されている核弾頭は20から60発に及ぶと睨んでいる。こうした点を踏まえると、申告の提出がない限り、非核化の完遂に向けて工程表を描くことはできないと言えよう。
 
 金正恩が行っているのはほんの一部の核関連施設やミサイル関連施設の廃棄に過ぎない。9月中旬に開催された第3回南北首脳会談で発出された「平壌共同宣言」において米国が「相当措置」を取るならば、寧辺(ニョンビョン)核施設の廃棄に応じる用意があることが謳われた。同宣言によると、「北側は米国が6.12朝米共同声明の精神に従って相応措置を取れば、寧辺核施設の永久的な廃棄のような追加措置を引き続き講じていく用意があることを表明した」とある。このことは金正恩の言う非核化は寧辺核施設の廃棄に限定されかねないことを示唆した。寧辺核施設は確かに老朽化が進んでいるものの、北朝鮮の最大規模の核施設でこれまで核開発の中核を担ってきたいわくつきの核施設である。かりに金正恩が同施設の廃棄に応じることがあるとしても、上記の情報機関による推定を踏まえると、核関連活動全体からみれば氷山の一角に過ぎないであろう。その後、10月7日に急遽、開催された金正恩・ポンペオ国務長官会談で極めて重大なことが明らかになった。米国が提供すべき「相応措置」とは朝鮮戦争の終戦宣言だけでなく経済制裁の解除であると金正恩は断じた。その上で、トランプ政権が求めてきた申告の提出に対し釈然としない事由をあげ、金正恩は提出を拒否したのである。これに対し、ポンペオは朝鮮戦争の終戦宣言には寧辺核施設の廃棄だけでは不十分であるとし、すべての大量破壊兵器の廃棄、核弾頭、ICBM、移動式発射台の廃棄や国外搬出を行うことが終戦宣言に応じる条件であると断言した。
 
 2006年以降、国連安全保障理事会で対北朝鮮経済制裁決議が頻繁に採択され、度重なる経済制裁が課されてきた事由は、北朝鮮の核実験や長距離弾道ミサイル発射実験を阻止し、核・ミサイル開発に縛りを掛けるためであった。今日まで、経済制裁は核・ミサイル開発を食い止めるための極めて重要な手段となっている。もし非核化が不十分なまま経済制裁が緩和あるいは解除されるようなことがあれば、核・ミサイルの増強を防ぐ手段はなくなってしまいかねない。他方、トランプを取り囲む米国内での政治環境は必ずしもよろしくない。ロシア疑惑を巡る問題が相変わらず払拭されない中、2018年11月の米中間選挙での下院共和党の大敗を受け、身動きがとれない感のあるトランプは年末から民主党の猛反発を受け、メキシコとの国境の壁建設を盛り込んだ予算が通らないという局面に追い込まれた。このため長期に及び一部の政府機関は閉鎖されるという事態へと発展した。一貫して強気を装うトランプであるが、次第に窮地に立たされているのが現実である。
 
 こうした中で、トランプは第2回米朝首脳会談を開催して政権浮揚につなげようとしていることが察しられる。とは言え、非核化を巡り米朝間の主張がはなはだ食い違うなかで、第2回米朝首脳会談において一体何が話し合われるのか案じられる。既述の通り、10月7日に金正恩・ポンペオ会談が行われて以降、2019年1月中旬まで米朝間では高官協議だけでなく実務者協議も開催されていなかった。そんな中、トランプが2月下旬の第2回首脳会談の開催を公言するに及び、1月18日にポンペオと金英哲・朝鮮労働党副委員長の間で米朝高官協議が、これと並行して米朝実務者協議が急遽、行われた。(つづく)
 
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