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2019-01-18 19:55

(連載1)TPP11による雇用創出効果の誤算

倉西 雅子 政治学者
 昨年末、2018年12月30日に、日本国が主導したとされるTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)が発効する運びとなりました。2019年は、TPP11の誕生と共に幕開けしたといっても過言ではありません。国境を越えて環太平洋に地域に自由貿易圏が出現したことで、マスメディア等の論調は凡そ期待論で一色です。しかしながら、同経済圏が立脚している比較優位説を含む経済理論には重大な欠落、あるいは、現実との乖離が潜んでいる点を考慮しますと、リスク面にも関心を寄せる必要があるように思えます。

 そこで、本稿では、まずはTPP11期待論が主張する雇用創出効果について考えてみることとします。従来、雇用創出効果は、人々に就業の機会を与えるプラス効果として理解されてきました。特に、戦後、先進国は一貫して高い失業率に苦しめられており、雇用創出は、通商政策のみならず財政政策や産業政策など、あらゆる経済関連の政策において実現すべき課題とされてきたのです。

 こうした雇用創出効果への期待に応えるように、2017年12月12日に開かれた経済財政諮問会議において、日本国政府は、TPP11、並びに、2019年2月1日に発効を予定している日欧経済連携協定(EPA)において、それぞれ、46万人、29万人の雇用創出を見込むとする試算を公表しています。両協定を合わせれば、近い将来、日本国内には新たに75万人の雇用が生まれることとなるのです。仮に、従来の政策評価の基準、即ち、雇用創出=プラスに従えば、TPP11がもたらす雇用創出効果は国民からも歓迎されたことでしょう。

 しかしながら、このプラス評価は、雇用状況の変化によって一転します。特に日本国は、TPP11加盟国の中で唯一深刻な人手不足が指摘されている国です。言い換えますと、たとえTPP11の経済効果として46万人の雇用、あるいは、日欧経済協定を加えて75万人の雇用が増えたとしても、それは日本国の現状の人手不足をさらに加速化させるマイナス効果しかもたらさないのです。それでは、現実に、70万人規模の雇用が増加した場合、日本国政府はどのように対応するのでしょうか。(つづく)
 
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