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2007-04-28 20:12

連載投稿(3)米の介入排除が北の核保有目的

武貞 秀士  防衛省防衛研究所統括研究官
 北朝鮮の軍事力は、韓国に対して圧倒的に旧式化してしまった。南北海軍の艦艇衝突事件で判明したことだが、兵器のハイテク化という分野で北朝鮮が韓国に追いつくことは困難だろう。北朝鮮は核兵器を持てば、韓国と戦わなくとも韓国を屈伏させることができると考えている。また、その韓国を米国が助けるというシナリオを無くしてしまえば、北朝鮮は「自主的平和統一」ができると読んでいるのである。北朝鮮の軍事力で、いま中心的位置を占めているのは核兵器である。実際の核兵器の開発段階がどこまでに到達したかとは別の問題として、北朝鮮の軍事戦略は「統一の過程で核兵器により米国の介入を抑止すること」である。

 2006年、核実験1週間前の10月3日、北朝鮮は外務省声明で、「最終目的は朝鮮半島非核化である」「自衛的戦争抑止力を強化する新たな措置を取る」と述べ、10月9日に実験を敢行した。北朝鮮のいう「朝鮮半島非核化」とは、「韓国、在韓米軍までも含めた非核のこと」と言い、「自衛的」というときは、朝鮮半島全体の「自衛」と言ってきた。「朝鮮人民軍は南朝鮮人民を守る」という表現にも、自衛とは韓国を「解放」することだというニュアンスがこもっている。北朝鮮にとり、「体制の維持」とは、「体制の正常化」を意味しており、金正日体制の維持だけではなくて、分断されている状態の終結を意味している。

 したがって、北朝鮮が「朝鮮半島とその周辺からすべての核の脅威を除去する」というとき、在韓米軍の撤退と、核の傘提供停止のみならず、米軍が朝鮮半島から撤退したあと、周辺の海域、やがては、日本からの米軍の撤退まで照準を合わせたものであると見るべきだろう。急激な現状変更を指向している北朝鮮の政策に対して、中国は懸念を隠さない。それに、米国が金融制裁を続け、日本が国交正常化に躊躇している。10月9日の核実験では、実験をすれば、北朝鮮に対する制裁が強化され、中国が北朝鮮に対する姿勢を厳しくする可能性があった。韓国政府は宥和政策の見直しをするかもしれなかった。そのときに、核実験をしたことで、「いかなるコストを支払ってでも核開発を継続する」と北朝鮮が考えていることを証明した。

 北朝鮮はなんのために「核抑止力」にこだわるのか。北朝鮮は米東部まで届く核兵器を作ることで、米国が「北朝鮮との戦いは、米本土の安全にかかわる」と考え、有事での介入を躊躇すれば、米国の韓国に差し伸べた核の傘には穴ができる。つまり、北朝鮮の核戦略が機能することになる。北朝鮮の統一政策に関連するほどの兵器なのだから、核実験による国際社会の制裁があっても、戦略を保持する必要があるのだ。(つづく)
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