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2018-12-18 19:02

政府の辺野古埋め立て土砂投入は適法

加藤 成一  元弁護士
 政府は12月14日米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設につき、V字型滑走路建設用地として辺野古沿岸部を埋め立てるための土砂投入に着手した。これにより同飛行場の辺野古移設は新たな段階に入ったと言えよう。もともと辺野古移設は、日米両政府が平成8年に米軍普天間飛行場の返還に合意し、平成11年に移設先を名護市辺野古と閣議決定し、平成25年に沖縄県仲井真知事が埋め立てを承認して以後、移設工事が進められてきた。ところが、その後、辺野古移設絶対反対を主張する「オール沖縄」陣営の支持で当選した翁長知事が、平成27年に承認を取り消したため移設工事は一時中断した。しかし、平成28年最高裁の「仲井真知事による辺野古埋め立て承認判断に違法性はない。」(平成28・12・20最高裁第二小法廷判決。民集70・9・2281)との判決で承認取り消しは認められず、沖縄県側の敗訴が確定した。

 その後、さらに沖縄県側は、辺野古移設を阻止するため県漁業調整規則に違反する無許可の岩礁破砕は違法だとして、国を相手に工事差し止めを求め那覇地裁に提訴した。しかし、平成30年3月13日同地裁により不適法として却下された。判決理由は「本件差し止め請求は、財産権の主体としての財産上の権利利益の保護救済を求める場合には当たらず、もっぱら行政権の主体として行政上の義務の履行を求める訴訟であるから法律上の争訟に当たらず不適法である。」というものである。今年12月5日控訴審の福岡高裁那覇支部判決でも同じ理由で不適法として控訴を棄却した。これらはいずれも「国又は地方公共団体がもっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は不適法である。」との確定した最高裁判例(平成14・7・9最高裁第三小法廷判決。民集56・6・1134)に基づく判断であり相当である。しかるに、前記平成28年12月20日の確定した最高裁判決により辺野古移設は容認され法的に決着がついているにも拘らず、あくまでも辺野古移設に反対する沖縄県側は、今年8月今度は辺野古大浦湾側の「軟弱地盤」などを理由として承認の撤回を行った。これに対して防衛省は今年10月行政不服審査法に基づき所管の国土交通大臣に不服審査請求をし、撤回の効力停止を受けて11月に移設工事を再開した。「軟弱地盤」など沖縄県側による承認撤回理由の法的根拠が乏しいこと、国による行政不服審査請求に何らの違法性もないことについては、拙稿「辺野古埋め立て承認撤回は法的根拠に乏しい」(2019年9月6日付け「百家争鳴」掲載)及び拙稿「国による行政不服審査請求適法性の法理」(2019年11月5日付け「百家争鳴」掲載)で詳述しているのでご参照されたい。

 沖縄県玉城知事や日本共産党、立憲民主党などは、「政府による今回の土砂投入は違法に違法を重ね沖縄の民意を無視した暴挙であり、民主主義や法治国家の破壊である。」などと政府を激しく非難攻撃している。しかし、上記の経過を見れば、沖縄県側による辺野古移設阻止のための法的手段は、前記最高裁判決を含めてことごとく法的に否定され完全敗訴しているのが現実である。このことは、法治国家である日本において、沖縄県側には法的に辺野古移設を阻止し得る正当な理由が全く無いことを明確に示すものであり、今回の土砂投入が法的に「違法に違法を重ねたもの」などとは到底言えず、単なるプロパガンダ(政治的宣伝)でしかないことは明らかである。これに対して、政府側は、前記平成28年12月20日の辺野古埋め立てを容認する確定した最高裁判決に基づき辺野古移設工事を合法的に進めてきたのであり、今回の土砂投入についても埋め立てを容認した上記最高裁判決に基づき適法であることは余りにも明白である。言うまでもなく、辺野古移設はあくまでも普天間飛行場の早期返還による危険性除去と抑止力としての沖縄米軍基地の重要性との両立を図るものである。

 玉城知事ら移設反対派は、今回の土砂投入は先の知事選挙で示された「沖縄の民意」を無視する暴挙であると非難する。しかし、近年における中国の急速な軍事力の増強、南シナ海における国際法を無視した人工島建設や軍事基地化、東シナ海における沖縄県尖閣諸島に対する実効支配を日本から奪取するための中国公船による常態化した領海侵入、平成20年の日中共同開発合意に違反する一方的なガス田開発など海洋進出を図る中国の脅威、そして、とりわけ地政学的観点から「対中抑止力」として辺野古移設を含む沖縄米軍基地の重要性を考慮すれば、日本の安全保障上「沖縄の民意」のみを絶対視して、国家の存立安全と1億2000万国民の生命財産を危険にさらすことは到底許されず、今回の土砂投入を中国政府も重大な関心をもって監視していることを国民は決して忘れてはならないのである。尖閣奪取を狙う中国政府は沖縄駐留米軍の弱体化を図るため、基地反対運動を煽る政治工作員を沖縄に送り込み、米軍基地反対集会やデモに参加させ日米両国の離反を図っている(米国議会諮問機関「米中経済安保調査委員会」の2016年3月15日付け報告書参照)。今年10月1日付け中国紙「環球時報」も、「沖縄米軍基地撤去を掲げる玉城氏が当選し、沖縄人民が日米に重大な勝利を収めた。」などと報道して日本に内政干渉し、中国政府にとって好都合な辺野古移設反対の玉城知事の当選を非常に喜び歓迎しているのである。
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