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2018-12-03 08:14

(連載2)プーチン大統領の北方領土戦利品論の不正義

倉西 雅子  政治学者
 ソ連邦としては、1941年12月のアメリカに対する日本国の真珠湾攻撃を同盟国の一国に対する攻撃と見なしたかったのかもしれませんが、この時点では、米ソ間に同盟関係はありませんでした。また、ソ連邦が参戦した時期は、日本国では、既にポツダム宣言受け入れは時間が問題となっていた戦争末期であり、日本側からソ連邦に攻撃を仕掛ける余力は最早残されてはおりませでした(ソ連邦が‘火事場泥棒’と批判された理由…)。況してや国連憲章では、他国の領土保全や政治的独立を脅かす武力の行使を戒めています。

 乃ち、当時のソ連邦の行動は、侵略を違法とする慣習国際法にも反し(連合国はドイツの侵略行為を咎めている…)、連合国内で定めた行動規範―不拡大主義―からも逸脱する共に、国連の出発点にありながらそれが定める行動規範をも踏み躙っているのです。今般、色丹島と歯舞群島の2島の引き渡しを約した56年の日ソ共同宣言を基礎として交渉を始める方針が示されているため、日本国内では、安倍政権が択捉島と国後島をロシアに正式に割譲するのではないかとする懸念も広がっております。

 今後の日ロ交渉では、色丹島と歯舞群島の帰属問題も議題となるとされており、この点に関しては、プーチン大統領は‘戦利品論’を引き下げざるを得なくなりますが、択捉島と国後島の2島を永遠に失うのでは、駆け引き上手なロシアの策略の罠にかかったとしか言いようがありません。そして、日本国の対ロ譲歩は、多大なる犠牲を払って第二次世界大戦で終止符を打ったはずの武力による領土獲得の歴史を蘇らせ、再度、人類を苦しめる結果を招きかねないのです。プーチン大統領は、臆面もなく戦利品論を打ち出していますが、仮に、ロシアが武力で領土を奪われた場合にも、‘それは戦勝国側の戦利品だから仕方がない’と諦めるのでしょうか。

 芥川龍之介の『羅生門』のようなお話になるのですが、ロシアの主張を認めることは、国際社会全体が弱肉強食の野蛮な世界に戻ることを是認するに等しいのです。ロシアが無法国家であり、真の正義を理解しない国である限り、妥協による北方領土問題の解決は、人類に退行をもたらすとともに、法の支配が行き渡る安全な国際社会を自ら放棄するようなものではないかと思うのです。(おわり)
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