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2018-11-22 10:26

(連載2)韓国大法院「徴用工判決」の法的検証

加藤 成一  元弁護士
 次に、上記の(2)については、大法院判決の多数意見は、「徴用工の損害賠償請求権は、不法な植民地支配及び侵略戦争に直結した日本企業の反人道的な不法行為による慰謝料請求権であるから、日韓請求権協定には含まれていない。」(「大法院判決書」4上告理由第3点に関してのイの括弧1参照)という独自の見解である。しかし、新日鉄住金側が差し戻し審で提出した追加の証拠によれば、韓国側は、1961年5月10日の第5次日韓会談の予備会談で、他国民を強制的に動員することによって負わせた被徴用者の精神的肉体的苦痛に対する補償を日本政府に要求し、同年12月15日の第6次日韓会談予備会談では、これを含めいわゆる8項目に対する補償として総額12憶2000万ドルを要求し、そのうちの強制動員に対する被害補償金を3憶6400万ドルと算定し提示した事実が認められる(「大法院判決書」4上告理由第3点に関してのイの括弧5参照)。ところが、今回の大法院判決の多数意見は、「提示は交渉で有利な地位を占めようとする目的のものに過ぎず公式見解ではない。交渉過程で総額12憶2000万ドルを要求したにもかかわらず、実際には請求権協定は3憶ドルで妥結した。

 このように要求額にはるかに及ばない3憶ドルのみを受け取った状況で、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたとは、到底考えにくい。」(「大法院判決書」同上括弧5参照)と述べている。これは驚くべき詭弁であると言えよう。なぜなら、以上の交渉経過を見れば、韓国側は明らかに植民地支配や侵略戦争による日本企業の「反人道的な」不法行為による「徴用工」個人の慰謝料請求権に基づく補償を日本政府に対して実際に要求しているのであり、且つ無償3憶ドルがたとえ不満であったとしても、最終的には承諾し何らの留保もなく漫然とこれを受け取っているからである。そのうえ、韓国側からは、日本企業の「反人道的な」不法行為による「徴用工」個人の慰謝料請求権だけは特別であるから、これを「日韓請求権協定」から完全に除外するとの特段の意思表示もされていない。そうすると、法理上は「徴用工」個人の慰謝料請求権が「日韓請求権協定」に含まれていることは明白であり、到底否定することはできないのである。このように、「日韓請求権協定」成立の過程における韓国側の意思と行動を見れば、「徴用工」個人の慰謝料請求権が同協定に含まれていることは明らかである。

 次に、上記の(3)については、韓国政府が「日韓請求権協定」の成立以来長期にわたって、「徴用工」に対する補償措置を行ってきたこと、2005年8月26日の韓国民官共同委員会が、慰安婦問題などは「日韓請求権協定」には含まれていないが、同協定により日本政府から受領した無償3憶ドルには「徴用工」の補償問題を解決するための資金などが包括的に勘案されたと認めていること、などの韓国側の一連の対応は、「日韓請求権協定」には「徴用工」の損害賠償請求権が含まれていることを前提としたものと言える(「大法院判決書」9のイの括弧5参照)。以上に述べた通り、前記(1)(2)(3)の要件をいずれも充足することは明らかであるから、「徴用工」個人の慰謝料請求権は1965年に日韓両国で締結された「日韓請求権協定」によって法的には完全且つ最終的に消滅し解決済みであることは明白である。

 よって、今回の韓国大法院判決は、1965年成立の国際法である「日韓請求権協定」に明らかに違反し、且つ条約法に関する条約26条及び31条にも違反する国際法違反の違法な判決であると言う他ない。しかるに、日本共産党など一部野党は、今回の韓国大法院判決の多数意見を擁護し、日本政府に対して韓国政府との話し合いによる「徴用工問題」の解決を求めている。しかし、政府与党はもとより、立憲民主党、国民民主党などの他の野党は、いずれも、「徴用工問題」は「日韓請求権協定」によって解決済みであり、仮に「徴用工」個人の慰謝料請求権が消滅していないとしても、同協定に基づき韓国政府において対応すべき問題であるとの立場を表明している。弁護士でもある立憲民主党の枝野幸男代表も10月31日の定例記者会見で、「徴用工判決は大変遺憾である。1965年の日韓請求権協定に基づく対応を韓国の行政府に求めたい。」と述べたが、法的に全く正当な見解であると同時に日本の国益を踏まえた見解であると言えよう。(おわり)
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