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2018-11-13 07:49

(連載2)試練を迎えた中国の新聞学院

加藤 隆則  汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
 では、学生はどこに就職するのか。教師は何を教えればよいのか。実は新聞学院の就職率はトップクラスに入るほどよい。従来のメディアだけでなく、ネット業界から企業の広報部門、教育機関まで、重宝されている。文章が書け、コミュニケーション能力があり、問題意識も高いとの評価が定着している。だが、学生やその両親からすると、「新聞(=ニュース)」の名前はあまりにも古く響き、理系のほか、法学部や経済学部の方に目が行ってしまう。確かに、将来記者になるつもりのない学生たちに、記事作成やインタビューの技術を教えても、興味がわかないのは当然だ。文章、交流、洞察の能力を高める伝統的新聞教育の核心部分は大事にしながらも、時代の変化に応じた変革をしなければ、業界とともに学界も衰退していくしかない。

 学部内での会議ではしばしば、伝統派と革新派が激しく対立する。育った年代の差でもある。そして最後は、大学とはなにか、なにを教える場なのか、という論点に帰結する。就職にすぐ役立つ技術を教えるだけでは、専門学校と同じではないのか。実際、単位は3年で履修し、4年目はインターンシップに追われる現状を見る限り、その指摘も外れてはいない。大学教育の定義は、人によって千差万別で、義務教育のような指導要領があるわけではない。要は教師が全身全霊を捧げ、自己の理想とする学びを実践する場なのだ。私はといえば、異なる文化と経験を学生と分かち合いながら、メディア、ニュースといった身近なキーワードを通して、自分を見つめ、周囲との関係を問いただし、独自の社会観、世界観、ひいては人生観を模索すること、を教育の柱としている。主体と客体を明確に分け、情報伝達を刺激と反応として機械的にとらえる従来のコミュニケーションモデルはもう古い。

 個人を機械の歯車の一つとして扱う大衆理論は、インターネット空間の分析にふさわしくない。心と脳、身体を分離するデカルト以来の二元論ももはや時代遅れだ。人は独立、孤立しているのではなく、周囲の環境と不可分に存在している。客観的に、機械的に情報を受発信しているのではく、主観的に情報をやり取りしている。理性と同時に感情や無意識の役割にも気を配らなければ、自分はなにか、という問いにも答えが出せない。人工知能(AI)がますます進歩し、人間の知能を超えるのではないかといわれる。だからこそ、長い進化の中で生まれた身体の役割をもっと深く認識しなければならない。

 ネットをはじめARやVRなど、バーチャルな空間が拡大しているからこそ、現場にいることを実感する身体の意義は重い。AI研究をはじめ、脳神経学、生物学、認知科学、情報工学、進化心理学、行動経済学など、各学問領域の成果を大胆に取り込み、過度に専門化した学術界の弊害を取り除かなければならない。新聞学院は、読んで字のごとく「新しく聞いたもの」を扱う。それはニュースに限らない。厳格な専門分野を持たず、雑多だからこそ、学際的な役割を担うのにふさわしい。私の夏休みの課題はまさにこの点にあった。前学期は、ロボット3原則にならってAI5原則を起草したが、今学期はこの内容をさらに深め、2・0版に挑んでみようと思う。(おわり)
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