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2018-10-31 10:49

沖縄県に対する行政不服審査請求は違法か?

加藤 成一  元弁護士
 国(防衛省沖縄防衛局)は10月17日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関して埋め立て承認を撤回した沖縄県への対抗手段として、行政不服審査法2条に基づき直近上級行政庁である国土交通大臣に不服審査請求をし、同法25条に基づき撤回の効力と執行の停止を申し立てた。これに対して玉城デニー新沖縄県知事は先の知事選で勝利したことを背景に、「国民の権利保護のためにある行政不服審査法に基づく国による不服審査請求は違法であり、法治国家にあるまじき行為である。」と国を強く非難し徹底抗戦する構えを示している。

 確かに、行政不服審査法は、「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し・・・国民の権利利益の救済を図る・・・ことを目的とする。」(同法1条1項)と規定されている。そして、同法7条2項には国の機関や公共団体がその「固有の資格」において受けた処分等については、同法は適用されないと規定されている。普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する行政法学者・研究者らは、国は私人とは異なりその「固有の資格」において公有水面埋立法に基づく埋め立て承認を受けたのであるから、今回の国による行政不服審査法に基づく不服審査請求は、国民の権利救済を目的とする同法の趣旨に反し違法であり許されないと主張している(10月27日付け「しんぶん赤旗」)。

 しかしながら、行政不服審査法1条1項には、「この法律は・・・行政の適正な運営を確保することを目的とする。」とも規定されている。すなわち、「行政不服申立制度は、一面において国民の権利利益の簡易迅速な保護救済を図ると共に、他面において行政の客観的な適正を確保する手段としての意義を持つ」(佐賀地判昭和39・4・9行裁15-4-711)のである。加えて、国土交通大臣は、処分行政庁である沖縄県から独立性を持った行政機関であり、行政機関相互のチェックアンドバランスの側面もある。したがって、不適正な行政行為によって国益が著しく侵害され、簡易迅速な救済の必要性が極めて高い場合には、国には「固有の資格」に基づかず私人に準じて行政不服審査法による不服審査請求が可能であると解すべきである。

 そうだとすれば、今回の沖縄県による埋め立て承認撤回が、(1)普天間飛行場の辺野古移設がすでに確定した最高裁判決により容認されているにも拘らず、撤回理由が単なる「手続き違反」「軟弱地盤」「活断層」「環境保全」など、いずれも、もっぱら辺野古移設を阻止妨害することを目的とするものであり、法的根拠に乏しいこと(9月6日付け「百家争鳴」掲載拙稿「辺野古埋め立て承認撤回は法的根拠に乏しい」ご参照)、(2)普天間飛行場の辺野古移設が、日米同盟の強化によるアジア太平洋地域の平和と安定、普天間飛行場の危険性除去、地政学上も日本の安全保障に必要不可欠であることを考慮すれば、沖縄県による埋め立て承認撤回は、不適正な行政行為による国益の著しい侵害に該当し、簡易迅速な救済の必要性が極めて高く、したがって、国による不服審査請求は適法であると解すべきであろう。ちなみに、国による行政不服審査法に基づく不服審査請求が、「固有の資格」により不適法であるとの最高裁判例は存在しない。行政法学者・研究者らによる反対意見は単なる意見に過ぎず、法的拘束力が全くないことは言うまでもない。
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