国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2007-04-17 23:16

温家宝首相訪日を礎に日中協力のアリーナを確立せよ

石原 雄介  大学生
 4月11日から13日にかけて温家宝中国国務院総理が日本を訪問した。温首相自ら「氷を融かす旅」と位置づけた今回の訪日は、3日間という限られた日程の中、日中首脳会談に加え、天皇陛下との謁見、経済人との交流、そして衆議院での演説など、充実した内容となった。しかし、日中関係の進展を考える上で、具体的な成果として何よりも注目すべきは、初日に行なわれた「日中共同プレス発表」であろう。

 このプレス発表については、以下の2つの点で評価できる。第1に、日中間に立ちはだかる種々の懸案事項に関し、いくつかの具体的打開策が示されたことである。とくに「東シナ海問題を適切に処理」することが大枠で合意されたことは特筆されうる。また、すでに今回のプレス発表を踏まえ、自衛隊と人民解放軍の参謀を結ぶホットライン設置の方針が基本的に合意されるなど、具体的な協力枠組みとして動き出しているものもある。第2に、日中関係の3つの重要な政治文書「日中共同声明」、「日中平和友好条約」、「日中共同宣言」の基本原則が再確認されたことである。なかでも「日中共同宣言」は、周知のように「地域と世界の中の日中関係」という立場を前面に打ち出しており、今回、同宣言の有効性が再確認されたことは、東アジア地域秩序構築の上でもきわめて象徴的である。

 とはいえ、今回の共同プレス発表では、「アジア及び世界の平和、安定及び発展に対して共に建設的な貢献を行うことが、新たな時代において両国に与えられた厳粛な責任」であると謳われているものの、東アジアにおける地域秩序構築までをも視野に入れた具体的な協力内容についての言及に乏しかったのが悔やまれる。経済協力の分野で「双方は、協力して第三国に援助を提供する問題について対話を行うことで一致した」と記されているが、これなどは貴重な例外であろう。この方針に基づけば、日本がODAなどを通じて築いた対外援助のノウハウを中国に伝授し、逆に中国を「責任ある利害共有者」として地域秩序構築のプロセスに組み込める可能性が生じ、その関係はきわめて「互恵的」なものとなる。

 東アジア地域秩序の構築プロセスにおける日中協力の重要性は強調してしすぎることはない。ここでいう日中関係とは、むろん、自己目的化したそれではなく、さらに周辺国をも含めた地域的な拡がりを射程に収めた開かれたものであるべきである。ASEAN+1が3つ併存する形で進んできた東アジア地域協力の現状を、より効果的で戦略的に調整された真のASEAN+3、あるいはさらに広い協力枠組みに発展させるための具体的な構想が待ち望まれる所以である。

 今回の温家宝首相の訪日は、小泉政権期のまともな対話すらままならなかった日中関係を打開し、両国の歩み寄りと近未来の協力枠組みに関する具体的な指針を提示してみせた点で画期的な意義をもつことは間違いない。この成果をさらに発展させるためには、今回の「日中共同プレス発表」における理念を、東アジア地域統合というより広い文脈の中で具体的に位置づけ、より創造的な日中協力のアリーナを確立することが必要ではないだろうか。今秋に予定されている安倍首相の中国再訪とその後の胡錦濤主席の訪日に期待したい。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会