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2018-09-27 12:23

「見えない米中戦争」は始まっている

倉西 雅子  政治学者
 渋っていた中国が米中貿易協議に応じるとの情報が伝えられた矢先、アメリカのトランプ大統領が、予定していた22兆円規模の対中制裁関税の実施に向けて措置を採るよう命じたと報じられております。今後は、さらに30兆円規模の制裁関税を上乗せする計画も明らかとなり、米中貿易戦争はいよいよ全面戦争へと向かうようです。アメリカの対中貿易赤字は、米商務省の統計によれば、2018年2月の時点で、前年比で8.1%増加して凡そ41兆円(3752億ドル)となり、過去最高額を記録しています。この数字に照らせば、膨大な対中貿易赤字を一気に削減しようとするトランプ政権の強い意気込みが感じられるのですが、中ロの接近が顕著となり、北朝鮮の非核化問題が拗れるにつれ、対中貿易戦争は米中間の貿易不均衡是正のみを唯一の目的とはしていない、とする見解が急速に支持を集めるに至っています。輸出大国となった中国は、その経済力を踏み台にした軍事力により、今や、アメリカのみならず、国際社会において深刻な平和に対する脅威として立ち現われているからです。

 第二次世界大戦後の国際社会は、長らく冷戦構造下においてソ連邦が超大国としてアメリカと肩を並べつつも、基本的にはアメリカが仕切っており、ソ連邦を筆頭とする東側陣営は、どちらかと言えば主流派に対する「抵抗勢力」の立場にありました。そして、アメリカが他の諸国、並びに、一般国民からの支持を受けて「世界の中心国」となり得た理由は、抜きんでた軍事力にもまして、曲がりなりにも、自由、民主主義、法の支配、基本権の尊重といった人類普遍とされる価値の擁護者であったからに他なりません。もちろん、時にはアメリカの露骨な国益追求が表に出て、国際的な批判を受けることもあったのですが…。普遍的な諸価値の標榜は、それが、人の自然的な感情や良心に基づくが故に、誰もが抗えないアメリカが有する最強の「ソフト・パワー」であったと言えます。

 一方、今日の中国は、人類社会の自明の理とも言える普遍的な価値など、一顧だにしていません。それどころか、持てる資源と科学技術力の全てを軍事面に注ぎ込んだソ連邦と同様に、情報・通信分野やコンピュータ部門で培われてきた高度先端技術をも、アメリカを越えるハイテク兵器の開発のみならず、これらの諸価値を破壊するために積極的に活用しています。その破壊力は、中国国内のみならず国際社会にも及んでおり、非民主的な体制を敷く国家を蔭から支援し、国連までも自らの影響下に置こうとしているのです。

 しばしば中国は魅力的な「ソフト・パワー」に乏しいと指摘されていますが、強制力としての「ハード・パワー」さえあれば前者は不要と見なしているのでしょう。中国と比較すれば、アメリカは、独裁者に対して寛容であるとされるトランプ政権下にあってなおも価値志向の強い国と言えます。そして、将来において暴力主義国家である中国が君臨する国際社会が出現するとすれば、それは、中心国としてのアメリカの地位を揺るがすのみならず、全ての諸国と国民にとりまして、暗黒時代の到来を意味します。自国が中国に従属し、社会や文化も中華色に染まる未来を歓迎する国民は、何処にもいないはずです。米中貿易戦争が「見えない米中戦争」であるならば、日本国政府は、迷わずに、同盟国であるアメリカと共に対中貿易戦争に加わる、即ち、中国の経済力を削ぐ措置を採るべきなのではないでしょうか。同盟国としての義務のみならず、また、自国の安全のみならず、人類の普遍的な諸価値を擁護する国として。
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