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2018-09-10 21:03

(連載1)自由貿易主義で国家は何を失うのか?

倉西 雅子  政治学者
 戦後、自由貿易主義は国際経済の基本原則となり、各国は、こぞって関税率の引き下げや数量規制の撤廃等に熱心に取り組んできました。二国間であれ、多国間であれ、他国との自由貿易協定や経済連携協定の締結も政府の通商政策上の重要課題となり、その結果、現在に至るまで数多くの地域的経済圏が誕生してきたのです。しかしながら、トランプ政権が着手したNAFTAの見直しが象徴するように、今日、自由貿易主義は曲がり角に来ているのです。

 それでは、何故、自由貿易主義、あるいは、グローバリズムは、現実を前にして立ち尽くすことになってしまったのでしょうか。この問題を考えるヒントの一つは、9月6日付の日経新聞朝刊に掲載された記事に見出すことができます。記事の内容は、インドネシア政府による関税率引き上げとインドネシア・ルピアの相場下落に関するものであり、その原因として、同国が抱える貿易赤字を指摘しています。

 通常、何れの国も貿易決済不能に陥らないよう、IMFに加盟すると共に、外貨準備を積み上げています。しかしながら、赤字が恒常化する、あるいは、外貨不足が深刻化する場合には、政府には、幾つかの取り得る政策手段があります。最も一般的な手段は、(1)関税率を引き上げて他国からの輸入量を減らす、(2)自国通貨を切り下げて自国の輸出競争力を高める、(3)他国からの輸入を手控えて自国製品で代替する、(4)外部からの融資や支援を受けて急場を凌ぐ、の4つです。これらの手法はごく一般的な経済政策の‘いろは’でもあり、政府は、デフォルトや通貨危機を脱し、自国経済を救うために自らの政策権限として実施してきました。乃ち、貿易から生じる不均衡問題に対しては、(4)の国際機関のIMF頼みのみならず、(1)・(2)・(3)という各国政府による政策の実施も、救済・調整機能を果たしてきたのです。

 今般のインドネシアの措置の場合、政府が意図的にルピア安に誘導したのかどうかは分かりませんが、少なくとも関税引き上げについては、その目的が貿易赤字の改善であったことは確かなようです。同記事は、取り立ててインドネシア政府に対して批判的な論調ではなく、むしろ、理解を示しているようにも読めます。ところが、同様の措置をアメリカが取りますと、雨や霰の如くに批判の矢が降り注いでくるのです。トランプ政権が実施している関税引き上げ、ドル安容認、自国製造の推奨は、まさしく貿易赤字国が採る常套手段に他ならないにも拘わらず…。(つづく)

 
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