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2018-08-20 15:25

「AI政治家」は説明責任を果たせるのか?

倉西 雅子  政治学者
 ディープラーニングの出現により、AIは、人が指示しなくとも自らの能力で様々な判断ができるようになりました。囲碁、将棋、チェス等では、トップクラスの棋士たちがAIを前にして敗北しており、多くの人々が、AIが知的能力において人を凌駕する時代の到来を確信することとなったのです。人間の天才をも易々と越える能力を有するAIの登場は、近い将来、人々から仕事を奪う存在として警戒もされているのですが、その並外れた能力の高さから、既に実用化が検討されている分野もあります。とりわけ、AIの発展史上のブレークスルーとなった自己判断能力が高く評価され、政治分野での活用も取り沙汰されているのです。

 とは申しますものの、政治とは、古来、国家による一方向的な権力行使に陥りがちな分野です。乃ち、AIに政治的な判断を全面的に任せますと、国家と国民との間の双方向性を意味する民主主義が消滅し、映画の世界の如く、‘AIによる人類支配’が出現するかもしれません。‘AI政治家’は、その超越的な知的能力のみを権力の正当性の根拠として権力の座に就くのであり、有権者が選挙によって選ぶわけはないからです。AIの政治利用については、権力は腐敗しやすく、しかも、政治家は私利私欲に流され易いという一面を取り上げて、中立・公平、かつ、頭脳明晰な‘AI政治家’の方が、国民から信頼を得ることができるとする主張もあります。その一方で、AIの政治的な決定は、その設計者の政治的偏向や政治信条、あるいは、入力データの事前選別の影響を強く受けるとする説もあり、必ずしも中立・公平性が確保されているわけでもないようです。また、AIの政治判断が、広く一般の人々から集積されたビッグデータに基づくものであるならば、それは、ネット上に表明された国民一般、あるいは、オピニオン・リーダーの政治的傾向の解析に過ぎなくなります。

 何れにしましても、‘AI政治家’には問題が山積しており、その実現性には疑問があります。しかも、生身の政治家は、国民に対して説明責任を負っています。果たして、‘AI政治家’は、自ら下した決定に対して、政治権力の信託者、即ち、国民が満足し得るレベルの説明ができるのでしょうか。仮に、AIがこの能力を有するとしますと、それは、自らを構成するアルゴリズムを明らかにした上で、結論に至ったプロセスを自己分析して他者に説明する能力を備えていることを意味します。人では当たり前にできることですが、現状の技術レベルでは、AIの自己決定のプロセスについては、その製作者ですら説明できないというのです。自らの決定プロセスを万人が納得するように論理的に説明できない限り、‘AI政治家’は、国民から信頼を得ることは殆ど不可能なのではないでしょうか。この素朴な疑問、‘AI政治家’にぶつけてみるのも、興味深い実験かもしれません。

 ディープラーニングがあまりにも画期的な発明であったために、AIに対する期待は否が応でも膨らんでいます。しかしながら、その活用方法や導入分野を間違えますと、人類が生み出したAIが人類を支配するという本末転倒が起こり、人々から生きる喜びや生き甲斐を奪うかもしれません。政治分野については、AIの技術開発と同レベルの熱意と資金を以って、政治腐敗や利益誘導型の政治を効果的に防ぎ、民意を誠実に汲み上げ、かつ、上手に利害調整ができる、より高度で優れた’人による’民主的統治制度を開発した方が、余程、人類に益するのではないかと思うのです。
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