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2018-05-30 10:18

(連載2)米朝首脳会談に向けた仕切り直しと不確実な先行き

斎藤 直樹  山梨県立大学教授
 もしも金正恩がこれらの要求に真摯に応じることがあれば、非核化の実現に近づくことは確かであった。そうであるとすれば、会談準備はトランプ側の思惑通り進んでいたことになる。他方、5月9日の金正恩とポンペオの会談において、トランプが唱える北朝鮮による非核化の先行と米国による見返りの提供という一括妥結方式と、金正恩が唱える段階的で同時並行的な非核化の方式についてのやり取りが行われたかは明らかではない。妥結に向けて最も難しいと思われるのはその非核化の方式であると双方は認識しており、そうした問題を曖昧して開催に合意した可能性がある。トランプ側も金正恩側も自らが主張する非核化の方式を世界に向けて大々的に吹聴してきたが、いずれ相手側が折れ歩み寄ることを前提として首脳会談への準備を進めたのではないかと推察される。

 しかし5月10日のトランプによる首脳会談発表から、非核化の方式を巡る齟齬は避けて通れぬ争点となったことは、その後の米朝間の一連のやり取りから明らかであろう。24日のトランプによる米朝首脳会談中止の発表を受け、金正恩が激しく狼狽したことは間違いない。翌日の25日に釈明ともとれる談話が金桂冠から公表された。「・・米朝首脳の対面を控え一方的に核廃棄の圧力をかけてきた米国側の過度な言動が招いた反発にすぎない」と金桂冠は述べ、「・・私たちはいつでもどのような方法でも向かい合い、問題を解決していく用意があることを米国側に再び明らかにする」と珍しく低姿勢でトランプに理解を求めた。

 25日午後に金正恩は藁にも縋る思いで文在演との接触を試みた。これを受け、26日に金正恩は文在演と板門店で二度目の首脳会談に臨み、米朝首脳会談の開催に向けて自らの意思を文在演に伝えた。27日に文在演は「金正恩委員長が朝鮮半島の完全な非核化の意志は確実だということを昨日改めて表明した」と声高々に力説した一方、「・・(非核化)をどのように実現していくのかという行程表はまた米朝間で協議が必要であり、そのような過程が難しいかもしれない」と核心的な部分でお茶を濁した。このことから伝わってくるのは、金正恩は同会談で「板門店宣言」にある朝鮮半島の非核化について言及した一方、米朝間で争点となっていると想定される非核化の方式については文在演と金正恩の間で確認されなかったことを示唆する。この間、米朝間で準備協議が行われているとされるが、その進捗は不透明である。

 こうしたことから、果たしてトランプが米朝首脳会談の開催を改めて決断するかどうかは楽観できない。本質的とも思われる点で米朝が対立しているようにみえるからである。北朝鮮による非核化の先行と米国による見返りの提供というトランプの主張に対し、段階的で同時並行的な方式を唱える金正恩が歩み寄ることがあろうか。24日のトランプによる米朝首脳会談の中止発表で明らかになったのは、合意が成立しないような米朝首脳会談は行わないというトランプの判断であった。したがって、金正恩が核心とされる争点で目に見える譲歩を行わなければ、トランプが首脳会談の開催を改めて決断するかどうかは不確実であろう。こうしたことから、金正恩がトランプを納得させるだけの姿勢を見せることができるかどうかが真摯に求められているであろう。(おわり)
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